Identity 『一日目』 PM 5:39-2
――雨が降ってきた。
最初はポツ、ポツぐらいだった。だがすぐに土砂降りに変わった。
焚き火の火も消え、辺りは完全な闇に覆われた。
一寸先も見えない闇。透流たちにとっては初めての経験で。
闇への恐怖は思っていたよりも大きくて、
突然、誠が淳を背負って森の中に走り出した。
「おい、誠!」
透流が後を追いかける。他の皆もそれに続いた。
「人のいるところまで行くんだよ! このままじゃ俺たち、皆死んじまう!!!」
死ぬ。
その言葉は何よりも恐怖に陥れた。
皆走った。誠も、璃俐も、廉児も、裕也も、早紀も、淳も誠から落ちないように振り絞るように力を込めて、しがみついた。勿論、透流も。
皆本当のところではわかっているのだ。動いたら危ない、と。
遭難するかもしれない。いや、その確率のほうが高い、だけど……
誰かが助けに来るなんて、もう信じられなかった。
待っているのは助けではなく、死ではないのか?
だったら。
とにかく、動かないと。
このままじゃ、――死ぬ。
走った。とにかく走って、走って、誰かが転んで、起き上がって、また走って。
走って走って走って走って走ってはしってハシッテはしッテ――
「…、っ!」
先頭にいた誠が、息を切らして止まったのを見て、ようやく皆も止まった。
周りは、木、木、木。それしか見えない。明かりはおろか、鼠一匹もいなさそうだった。
全員に、絶望感が漂う。
「……どうするんだ? 誠……」
透流が、返ってくるはずのない問いを誠にかけた、その時。
――…………。
“声”が聞こえた。小さくて、なんて言っているのかまでは聞こえなかったけど。
この七人以外の“声”。
近くに、人がいるのか……?
「皆、もう少し……もう少しだけ、行こう」
透流が呼びかける。否を唱えるものはいなかった。
止まっていても、意味はないから。だったら少しでも、希望のある方へ。
透流が先頭に立って、“声”の聞こえたほうへと進んでいく。
もう、精神が限界に来ていた。“声”も消えてなくなった。
どうか。どうか幻聴じゃありませんように。
神がいるならば。“声”が聞こえる、この能力を与えた神様。
ずっと怨みの“声”を叫び続けた俺だったけど。
今だけは、助かるならば、これから二度とそんな“声”を上げたりしないから。
お願いだ、お願いだよ。
俺達を、助けてくれ。
だが、三十分歩いても、人の気配はなかった。
諦めかけた時。
「見て、あそこ!!」
早紀が叫んだ。全員が先の指差すほうを見た。
本当に、本当に僅かだけど。
光が見えた。明らかに人口の光だった。
「人がいる……」
裕也の呟きに。
全員が、光に向かって走り出した。
もう体力なんか残っていなかったけど。
助かった、誰もがそう思った。
そして、皆揃ってどこかにいる神様に感謝した。
でも、少なくとも、透流は知っているはずだった。
神様なんて、いないこと。