投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

Identity
【SF その他小説】

Identityの最初へ Identity 7 Identity 9 Identityの最後へ

Identity 『一日目』 PM 5:39-2

 ――雨が降ってきた。
 最初はポツ、ポツぐらいだった。だがすぐに土砂降りに変わった。
 焚き火の火も消え、辺りは完全な闇に覆われた。
 一寸先も見えない闇。透流たちにとっては初めての経験で。
 闇への恐怖は思っていたよりも大きくて、
 突然、誠が淳を背負って森の中に走り出した。
「おい、誠!」
 透流が後を追いかける。他の皆もそれに続いた。
「人のいるところまで行くんだよ! このままじゃ俺たち、皆死んじまう!!!」
 死ぬ。
 その言葉は何よりも恐怖に陥れた。
 皆走った。誠も、璃俐も、廉児も、裕也も、早紀も、淳も誠から落ちないように振り絞るように力を込めて、しがみついた。勿論、透流も。
 皆本当のところではわかっているのだ。動いたら危ない、と。
 遭難するかもしれない。いや、その確率のほうが高い、だけど……



 誰かが助けに来るなんて、もう信じられなかった。
 待っているのは助けではなく、死ではないのか?
 だったら。
 とにかく、動かないと。
 このままじゃ、――死ぬ。



 走った。とにかく走って、走って、誰かが転んで、起き上がって、また走って。

 
 走って走って走って走って走ってはしってハシッテはしッテ――


「…、っ!」
 先頭にいた誠が、息を切らして止まったのを見て、ようやく皆も止まった。
 周りは、木、木、木。それしか見えない。明かりはおろか、鼠一匹もいなさそうだった。
 全員に、絶望感が漂う。
「……どうするんだ? 誠……」
 透流が、返ってくるはずのない問いを誠にかけた、その時。
 ――…………。
 “声”が聞こえた。小さくて、なんて言っているのかまでは聞こえなかったけど。
 この七人以外の“声”。
 近くに、人がいるのか……?
「皆、もう少し……もう少しだけ、行こう」
 透流が呼びかける。否を唱えるものはいなかった。
 止まっていても、意味はないから。だったら少しでも、希望のある方へ。
 透流が先頭に立って、“声”の聞こえたほうへと進んでいく。
 もう、精神が限界に来ていた。“声”も消えてなくなった。
 
 どうか。どうか幻聴じゃありませんように。
 神がいるならば。“声”が聞こえる、この能力を与えた神様。
 ずっと怨みの“声”を叫び続けた俺だったけど。
 今だけは、助かるならば、これから二度とそんな“声”を上げたりしないから。
 お願いだ、お願いだよ。
 俺達を、助けてくれ。

 だが、三十分歩いても、人の気配はなかった。
 諦めかけた時。
「見て、あそこ!!」
 早紀が叫んだ。全員が先の指差すほうを見た。
 本当に、本当に僅かだけど。
 光が見えた。明らかに人口の光だった。
「人がいる……」
 裕也の呟きに。
 全員が、光に向かって走り出した。
 もう体力なんか残っていなかったけど。
 助かった、誰もがそう思った。
 そして、皆揃ってどこかにいる神様に感謝した。
 でも、少なくとも、透流は知っているはずだった。

 
 神様なんて、いないこと。


Identityの最初へ Identity 7 Identity 9 Identityの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前