「人魚の泡沫」-1
「貴方の傍にいる」
代償と引き替えに
私が手に入れた権利
微笑んで
寄り添って
眠って
夢をみる
「おやすみ」
そう言って貴方は
髪を撫でて
肩を抱いて
優しい口付け
頬を撫でて
鎖骨を撫でて
胸に触れて
「綺麗だね」って
足を撫でた時
貴方は必ず口にする
私が
どんな想いで手に入れたかも知らずに
「綺麗だね」って
口にするの
「おやすみ」
心の中で呟く
瞼を閉じて
貴方の音に耳を傾ける
規則正しいこの音が
止まってしまえばいいのに
止まってしまえば
私も苦しくないのに
貴方への想いに
声に出来ない自分に
苦しまなくて済むのに
「綺麗だね」って
他の女(ひと)に囁いて
微笑んで
口付けした
足を撫でた
撫でて
微笑んだ
私はそれを見てた
声が出ない
涙も出ない
ただ見てた
「愛してる」
そう想っても
貴方に伝えることは出来ない
許されない
傍にいる事だけ
引き替えは
傍で微笑むだけだから
口にしたら
消えてしまう
貴方も
私も
全て消えてしまうから
泡になってしまう
泡になって
上昇して
上昇して
弾けてしまうから
私の人生の
全てと引き替えに
貴方の傍で
微笑んでいたい
泡にならぬように
弾けて消えぬように
口に出せない想いを秘めて
貴方を一番愛しているのは私
そう声に出来ない私は人魚
貴方を一番想っているのは私
そう伝えられない私は人魚
貴方が泡になるのを恐れてる
全てが泡になるのを恐れてる
●End●