朧月夜と満月と…-1
月の満ち欠けは、地球上の自然とか生物とかに大きな影響を与えているらしい。
授業で小耳に挟んだ程度の私には、それがどんな影響なのかは詳しく分からないけど、一つだけ確かに分かっている事がある。
それは、私・羽生 満月(ハニュウ ミツキ)に月が与える影響…ハッキリ言って、かなり厄介!なんだよね……
夜が更ける中、私は窓を少しだけ開けて、今日出された宿題と格闘している。
窓からの風はほんのり冷たくて、雨が降っている訳でも無いのにかなりの湿気を含んでいる。太陽が上れば、朝露が降りそうな感じかな。
私は椅子に座ったまま、『ん〜っ』と大きく伸びをした。やっと今、宿題が終わったところ。
それとほぼ同時くらいに、傍らに置いてあった携帯電話が着信を告げる。
相手の名前をディスプレイで確認してから、私は通話ボタンを押した。
「陽?こんな時間にどうしたの?珍しい…」
『珍しく無いだろ?別に。』
電話口から、耳慣れた陽の低い声が聞こえる。
「そぉ?で、何?」
『問4教えて!』
ふぅん…そういう事か……
『今からそっち行くから!』
はぃぃ?
「ちょ、ちょっと!」
ブチッ
私の意見も訊かずに、陽は一方的に電話を切ってしまった。
まったく…信じらんないっ!
私と電話の相手・嶋田 陽(シマダ ヨウ)は、幼馴染みでもありクラスメイトでもある。
親同士が親友で家も近いから、物心つく頃にはもう一緒に居た。私にとって、陽は兄妹みたいな存在かな…
そんな陽は、調子が良くていつも突然で…私は事有るごとに振り回されている。
「もう寝ようと思ってたのに…」
私の呟きも虚しく、もう一度手元の電話が鳴り響いた。
「今度は何?」
『みぃ、玄関開けて!』
ちっ、もう来たよ…
「ちょっと待ってて。」
本当はそのまま追い返そうかとも考えたけど、『宿題を一問教えるくらいならそんなに時間も掛らないだろう』と思って、私は陽を招き入れる事にした。
まぁ、無視してインターフォン鳴らされたりとか、扉をドンドン叩かれたりとか…そんな事されたら困るってのもあるんだけどね。
「いゃぁ、みぃ様助かるよ!」
陽は私の部屋に入るや否や、私のノートをペラペラ捲っている。
「それチャッチャと写して、サッサと帰ってね。」
「あいよ!」
私はかなり冷たい声で言ったと思うんだけど、陽は全く堪えていないみたい。
調子の良い返事を返したクセに、まだ私のノートを捲っている。自分のノートは閉じたままで…
「はぁぁ…」
アイツ…写す気無いな?
早く寝たいのに、長丁場になりそう…サイアク……
私は早々に諦めて、近くに有った雑誌を読み始めた。
しばらく雑誌に読み耽っていると、急に陽が立ち上がって窓の方へと近付いた。徐にカーテンをシャッと開ける。
私は『どうしたんだろ?』とか思いながらその様子を目で追っていたけれど、窓の外に黄色く浮かぶ月を見た途端、心臓がドクッと強く鳴るのを感じた。
ウソ…今日、満月……
「ダメっ、陽!」
気付いて叫んだ時には、時既に遅し…体の奥から、変な感情が込み上げて来る。
「どうした、みぃ?」
陽が心配そうに近付いて来て、私の顔を覗き込む。
次の瞬間、私は陽の胸に自ら飛び込んでいた。