朧月夜と満月と…-6
俺がグルグル考え込んでいる内に、みぃが俺の家に到着してしまった。構わず部屋にまで入って来て、ベッドの縁に腰掛けている。
みぃはどうも風呂上がりだったらしく、まだ髪が濡れたまま…髪を乾かす時間も無い程の急用が有るとでも言うのだろうか?
それ以前に、昨日あんな事が有ったばかりなのに、よくもまぁ俺の所に来ようなんて思えたもんだ。
俺がみぃの立場だったら、どんな用が有るにせよ絶対に二人っきりになんてならない。
「ねぇ、陽…」
しばらく無言のままでいたみぃが、突然言い難そうに口を開く。
「な、何だ?」
不覚にも声が上擦ってしまう。
「あの…さぁ、昨日の事…なんだけどね……」
「昨日の事が…どうかしたか?」
内心は絞首台に上る囚人の様な気分だったが、俺は努めて平静を装って言った。
次にみぃの口から語られる言葉が何なのか…本当は怖くて怖くて堪らない。
*******
「わ、忘れて…欲しいの……」
私は両手をギュッと握り締めて、ドキドキする心臓を必死に抑えながら言った。
「は?」
「ほ、ほら…陽だって気まずくなるのは嫌でしょ?私達は…幼馴染み…なんだし……」
「幼馴染み…ね……それで?」
「そ、それで…」
心なしか、陽の表情が険しくなった様な気がする。でも、私は構わずに言葉を続けた。
「な、無かった事に…したい……」
悩んで出した結論がこれだった。これ以外に考えられなかった。陽との関係を崩さない為には…
でも、私が打ち明けた途端、ブチッと何かが切れる音がした。
「無かった事…へぇ、無かった事ねぇ…そういうことかよ。」
「う、うん。」
背筋を冷たい汗が伝うのを感じる。
心なしか…なんかじゃない。目の前の陽は、完全に怒ってる。
今までどんなに私が我儘を言っても怒らなかったのに…なっ、なんで?
訳も分からずだだオロオロしている私をよそに、陽は更に怒りを露にする。
「オマエは、馬鹿かっ!?」
そう叫ぶ陽の瞳は鋭利な刃物の様に冷たく、声は低くて荒々しい。
「な、何よ…」
「普通気付くだろっ!それとも、もう一度満月見せられねぇと気付かねぇワケ?鈍いのもいい加減にしろっ!」
「ま、満月って…え゛ぇ?」
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や、やっちまったぁ…
みぃが目を満月以上にまんまるにさせている。
ハッとして口を押さえた時には、もう遅かった。俺は怒りに任せて、余計な事まで言ってしまっていた。
みぃが気付いていないのなら、俺はそれで万々歳だった筈なのに…自ら暴露してしまった。
あれがワザとだったのだと…
開き直るつもりは無いが、元はと言えばみぃが悪い。
鈍いにも程がある。
アイツは俺を、完全に“男”から除外している。
解っていたつもりだったが、改めて本人の口から聞かされると容赦無しに腹が立った。
『忘れろ』と言われて、そう簡単に忘れられる訳がない。ましてや、無かった事になんて到底出来る筈がない。
俺はこんなにもみぃの事が好きなのに…
「ちょ、ちょっと陽…それってどういう……」
ここまで来たら、もう腹をくくるしかない。どうせ元の関係には戻れないのだから…