ツバメE-1
「おっす、燕」
「おはよ」
「明日から科目試験だな」
「あ、やば、今夜合コン入れちゃった」
「おめぇ、またかよー!」
「じゃあいいの?席空けてるけど」
「あー?行くに決まってんじゃねーか!」
「そうこなくっちゃ!」
第六話
燕の日常
「桜実、ここどうやんの?」
「またかよー」
桜実と呼ばれた男は隣の燕を睨む。
「早く早くー!」
「お前、椿芽ちゃんとはどうなのよ」
「……」
桜実はニヤニヤしながら燕の席につく。
桜実こと、茂庭桜実(もにわおうみ)は燕の大学時代からの友人である。
ちなみに燕と椿芽をくっつけた男。
そして、察しのいい読者の方はピンときたかもしれないが、燕を専門学校進学の道に引き込んだのも彼である。
まあ、燕が勝手に便乗しただけだが。
彼はもちろん、誰かのように“遊びたい”という不純な動機ではなく、いい就職口を見つけるために進学を選んだ。
ここでもうひとつ豆知識だが、第一話で燕が椿芽に言った進学の理由は、桜実の言葉をそのまま言っただけなのである。
「相変わらず放置してんの?」
「いや、たまに遊びに行ってるけど?」
「たまにって…お前な、付き合ってんだろ?」
「うん」
「椿芽ちゃん怒んねえの?合コン行ってるの知ってんだろ?」
「怒ってないよ」
おいおい燕くん。
「……ハンパなことすんのなら別れたほうがいいんじゃねえのか?」
さすが桜実くん。しっかり見抜いている。
「椿芽ちゃんは新しい彼氏を見つけようと頑張ってるけどねー」
「は!?マジかよ」
「うん」
「お前な…それでいいのかよ」
桜実は呆れてものも言えないという顔をしている。
「どうせ椿芽ちゃんはむりだよ」
真顔でそう燕は言う。
「なに自惚れてんだよ。椿芽ちゃんはお前のことが好きで好きでしょうがないってか?だから合コンしたって怒らないってか?」
そう、桜実はとても恋愛に真面目な男なのである。
「なに熱くなってんの?」
「そ、そりゃ!俺は関係ないけどよ…」
「ごめん」
「……ま、まあしっかりやれよ」
「……うん」
その瞬間、チャイムが鳴る。
「あ」
「やば、早く早く!」
「ああ、ここをこうして…」
「うん」
燕と桜実は、IT関係の専門学校に通っている。
今一番“熱い”業界なので、努力すればいい会社にだって就職できると踏んだのだ。
しかし、やはりど素人がいきなりこの世界に踏み込むのは難しい。
多少、情報処理技術に精通していた桜実でさえも、復習を欠かさず行わないと付いて行けなくなる。
果たして燕は大丈夫なのだろうか。