誰も止めないと、言われた。-1
大切な人が死んだ。
何故死んだのか、今でも理解らない。
理解らなくて、忘れられなくて、よく分からなくなった。
だから、手首を切ってみた。
思ったより、痛くない。
死んだと聞いた時、涙は出なかったから、だから流れる血は涙なのだと思った。
流れる血が多ければ多い程、自分の悲しみを表現出来る気がして、だからいっぱい切ってみた。
だらだらだらだらと血が流れる。血は涙と同じく暖かかった。視界が暗くなって、眠気が身体に纏わりついた。
ああ死ぬんだな、と、何の感慨もなく思った。
あの子の姿が見えた。
「やあ」
呼び掛ける。その子はどこか堅い顔をしていた。
「死んじゃったのかな」
「まだ死んでない」
ぶっきらぼうに言う。怒ってるわけじゃない。それは理解った。
でも何を感じているのか、わからない。
「死にたいの?」
その子は聞く。
「わからない」
そう答えた。
「死にたいなら、勝手に死ねばいい。誰も止めない。止める権利は、誰にもない。だけど」
――――死に逃げるな
その子は突き放すように言った。
でもその口調には、やはり怒りはない。
自分は死にたいのか、死にたくないのか、やはりわからない。でも少なくとも、死ぬことに恐怖はない。
目が覚めた。
見知らぬ、天井。
「もう、自殺なんかしちゃ、駄目だよ」
白衣の男性に、そう言われた。
何故、自殺してはいけないのか、自分にはわからない。
でも自分は生きていて、死にたい理由もわからないのだから、死ぬ必要はないのだと思った。
だって、今自分は生きている。
それだけは確実で、例え生きていくことが辛くても、――生きているなら、生きていける。
死ぬのはいつでも出来るから、もう少し生きてみようと、そう思った。