Identity 『一日目』 PM 4:41-2
せっせと木を集めては戻り、集めては戻りを繰り返している。多分、誠がいなかったらこの場を仕切っていたのは彼女だっただろう。
例外が一人、深刻な怪我を負ったのは淳だった。
淳の肩口からは血が吹き出ていた。血はだらだらと流れるのではなく、脈に合わせて出血している。つまりそれは……
「藤村……その傷、動脈までイッてるんじゃねぇか?」
透流が指摘しても淳は何も言わない。脂汗が浮かぶ表情を見る限りではとても大丈夫そうには見えない。
「……手当て、した方がいいんじゃ…?」
自分でも言いながら、声が引きつっていた。……こんな大量に流れる血は、フィクションでしか見たことがなかった。
「……どうやってよ」
その声色は、いつも明るいあの淳のものとは思えないほど、重く、暗かった。
「包帯も薬も、何にもないじゃない」
「藤村……」
確かに、ここにいる(つまり生き残った)人のほとんどがそのままバスから這い出てきたので荷物はほとんどない。(透流は気絶していたが、誠にバスの中から引っ張ってもらった。“声”で大体のことは把握している)
一応、服を包帯代わりにしてあるが、とてもじゃないがそれで済むような怪我ではなさそうだ。ガーゼや包帯などできちんと止血が、できれば消毒したらベストだ。
元々暗かった空気がさらに重くなる。みんな何も話さない。
“塞いで”いるわけではないが、“声”は聞こえなかった。先ほどのバスの光景が、かなりのショックを透流に与えていた。
――きっとそれはみんな同じで
「透流」
誠が透流に呼びかけた。
「俺、バスのほうに行ってみる。荷物が残ってるだろうし、もしかしたら救急箱があるかもしんない」
「………! でも、あそこは……」
その続きは辛うじて飲み込んだ。
「……気をつけろよ」
なんとかそれだけは言えた。誠は頷くと木々の中へ消えていった。
凄いな、と思う。誠はこんな状況でも何かできることをしようとしているのだから。
透流は状況自体を把握できていなかった。
何でこんなことになったんだろう?
「ねぇ」
璃俐が話しかけてきた。
「助け、来るよね?」
「……当たり前だ、今頃学校側は大騒ぎになってる。すぐに来るよ、遭難したってわけじゃないんだし、ここは日本だ」
だが事故が起きてから二時間以上が経過していた。にもかかわらず、人の来る気配はない。
――何で助けは来ないんだ?