逃亡者-1
真っ暗な空間をひたすら走る。
逃げているつもりは無かった。
現実を見据えて、まだ完全じゃあないが自立して。
俺は前を向いて歩いていたはずなんだ。
なのに、気が付くと目の前には置いてきたはずの色々なものがあって。
気が付くと俺は後ろを向いていた。
そのたびに、その色々なものから目を背けて俺は再び走り出すんだ。
まるで逃亡者の様に。
家族仲は悪くはなかった。
喧嘩なんかはしょっちゅうだったが、そのたびに笑って話し合えた。
友達はみんな仲がよくて。
集まる度に馬鹿な話に花を咲かせた。
だけど。
そんな暖かな場所にいるたびに思っていた。
このままでいいのかって。
このぬるま湯は、決して変わることなく俺を包んでくれた。
だが逆に、それに甘えていく自分も存在した。
一人でなんていたくない。
誰かと一緒にいたい。
だが、もう遅い。
俺は逃げたんだ。
この煩わしい感情から。
あの時確かに存在した思い出や感情から、夢とか将来とかもっともらしいことを口にして、俺は逃げたんだ。
甘えを断ち切るふりをして、腐っていく自分から目を背けたんだ。
真っ暗な空間をひたすら走る。
振り向くと、そこにはまだ置いてきたものがあって。
暖かな光を出し続けている。
まだ、戻ってはいけない。
いつか、この感情を笑えるようになるまでは。
それまでは、逃げ続けよう。
腐らないように。
きちんと、向き合えるように。
俺は再び走り出した。