聖水-1
部屋の隅で、背後を壁で守るようにして、サキはベッドに座っていた。
プレーヤーからは最近流行りの邦楽が流れている。既にこの音量で音楽をかけるのは迷惑になる時間であるが、サキはがたがたと震えるばかりで一向に音楽を消す気配はない。
ふーっ、ふーっ、ふーっ……
部屋中に響く音楽だが、サキには自分の呼吸音がはっきりと聞こえる。
携帯電話が、異様に白くなった手で握られている。それは力の入れすぎか、恐怖のせいか。
ぴりん
刹那、手中の携帯電話が鳴る。どうやら友人のマイからの着信のようだ。
「サ、サキ!助けてぇ……」
荒い呼吸をしながら必死に訴えるマイ。しかし、助けを請う友人の声に対してサキはただ冷や汗を流すしかなかった。
「あ、あぁ……来る。廊下を歩いて……どうしようどうしよう……」
がちゃり、という音は扉を開けた音だろうか。
「ひ、ひ……やめてやめてやめ…………」
通話の終了を示す機械音を聞きながら、サキは呟く。
「何で、何でなのよう……」
数時間前から五人の女友達から同じような電話がかかってくる身の上なら、そう呟くのも無理はない。
彼女達は何かにすがりたくて電話してくるのであろうが、何の力にもなれないサキにとっては恐怖を助長するだけでしかなかった。
「あんな事したからだ。冗談のつもりだったのに!五人とも、死んだ?あの時はあたしを入れて七人いたから、あとはあたしとユウコちゃんだけだ……」
恐怖で萎縮し、痛みすら感じ始めた頭が最悪の結末を導き出す。
「次は、あたしだ……」
遂に涙を流し始める。サキは部屋に嗚咽の音を漏らす。
どこかに逃げようか。いや、逃げて、だから何なのだ。「あれ」から逃げ続けるなんてできっこない――
――しん
遂に邦楽が流れ終わり、余韻を残すことなく静寂がおとずれる。それはこのうえなく不気味で、不吉だった。
「う……」
予感がする。「あれ」が、来るのだ。
家中の音を網羅出来るほど、聴覚が研ぎ澄まされていくのがわかった。
ぴりりん
また携帯電話が鳴る。同じ音量の筈が今度は大きく感じられ、サキはびくっと体を揺らす。画面を見れば、メールであった。