投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

淫魔戦記 未緒&直人
【ファンタジー 官能小説】

淫魔戦記 未緒&直人の最初へ 淫魔戦記 未緒&直人 70 淫魔戦記 未緒&直人 72 淫魔戦記 未緒&直人の最後へ

その後の淫魔戦記-6

 その晩の食事は、地元で採れた山菜をたっぷり使った会席料理だった。
 未緒は榊と料理長に相談し、光には別メニューの離乳食を準備させてある。
 先に食事を済ませた光が寝付いてから、一行は夕食をいただいた。
「そういえば……」
 細長い皿に見目好く盛り付けられた三品の前菜に箸をつけながら、未緒は直人に声をかける。
「桜が気になるとおっしゃってましたけれど……何が気になっていたんです?」
 操がいる手間、未緒は直人に恭しい口調を使っていた。
 お猪口で地酒を楽しんでいた直人は、隣にいる妻を見る。
「ちょっと、ね……どうしてうちがここの旅館と縁が深いのか、話した事はあったかな?」
 未緒が首を横に振ると、直人はお猪口の中身を空にした。
 すかさず徳利に手を伸ばす未緒を制し、直人は手酌する。
「昔……先祖の一人が、この辺り一帯で暴れ回っていた奴をおとなしくさせたんだ。それからそいつを要として、この辺一帯の地鎮祭を行った。この旅館は……いや温泉は、その地鎮祭の後にできたのさ」
 色々と分かった未緒は、理解の印に肩をすくめてみせた。
「で、うちが泊まるのにふさわしい伝統と品格を兼ね備えているのがここという訳」
 直人個人としては一泊数千円の宿でも全く構わないのだが、自身にうんざりする程くっついた肩書が、そういった品位を要求するのである。
「それじゃあ、先程のは……」
 未緒の声に、直人は頷いた。
 それから何故か、残念そうな顔になる。
「見に行こうと思ったら、市長の秘書に取っ捕まったんだよ。ご当人は身内の結婚式に出席してるとかで来れないから代わりに来たとか何とか……もううるさくって、行く気力なんか萎えちゃってさ」
 おどけた風にそう言うと、直人は未緒を見た。
「だから今晩行こうと思って。よかったら、君もどうだい?」
 
 
 名物の桜は、少し離れた場所にある丘に集中していた。
 緩やかなカーブを描く上り坂はきちんと整備されているし、ゆったりした道の両側には灯籠風の明かりが等間隔で並べられているので、歩く事に支障はない。
 そんな丘の手前にある道を、二人は歩いていた。
 満月になるにはまだ少し足りない月が、異様に明るい。
「……久しぶりね」
 夫の肩に頭をもたせ掛けながら、未緒は呟く。
「二人でゆっくりするの……」
 二人の間には常に光がいたために、しばらくデートなどとは無縁だったのだ。
 別に神保家には使用人が腐る程いるのだから未緒付きの誰かに光を預けて遊び歩いたって誰も咎めやしないのだが、未緒がそれを是としないために、夫婦水入らずの時間というものがあまりないのである。
 それが幼少期に片親がいなかった寂しさをよく知っているせいなのか、それとも未緒自身の豊かな母性がそうさせるのか、直人には分からない。
 ただ……未緒は妻として母として娘として、非常によくやっていた。
 時々当主としての責務をこなすために直人が家を留守にしている間、榊を相談役に据えて使用人達を当主夫人として堂々と纏め上げていた事からも、それが分かる。
 何しろ神保家にはひどく閉鎖的な所があり、使用人は一族郎党が江戸時代より前から仕えているような面々がごろごろしているのだ。
 彼らは神保家に嫁いで十年にも満たない未緒の指令など、鼻で笑ってあしらうような連中なのである。
 そんな手強い奴らを意のままに従わせた未緒を、直人は心から誇りに思っていた。
「たまにはいいだろ?」
 直人はそう言うと、華奢な肩に腕を回す。
 ――道にゆっくりと、傾斜がついてきた。
 肌に纏わり付くような柔らかな素材のワンピースに寒気避けのカーディガンを羽織った姿の未緒だが、坂を意識してか足元はサンダルである。
 しなやかな足はピンクベージュのストッキングに覆われているが、やはりどうしようもないくらいになまめかしい。
 気軽に誘いをかけたのはよかったが、はたして彼女に会わせるのは賢明かどうか……。
 悩みながらも直人は未緒をエスコートし、丘を上がっていった。


淫魔戦記 未緒&直人の最初へ 淫魔戦記 未緒&直人 70 淫魔戦記 未緒&直人 72 淫魔戦記 未緒&直人の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前