runaway〜ある少年の逃避行〜-1
cafeteria〜昼休みの食堂〜
とある高校の食堂。ここの食堂は高さ、横、縦、広さ、どれをとっても広いし、高い。そして、何より料理が安くて上手い。何でも、料理を作っているおばさん達は元一流レストランにシェフとして務めていたらしいが、美人だったから辞めさせられたらしい(料理を作っているおばさん談)。まあ、ボクは「そんなわけないだろ!」と心の中で突っ込んだのだが……。
その食堂で、親友の『たっちゃん』と昼飯を食いながら話していた。
「巴さんって良いよな〜。そう思わないか? 千葉」
「誰だよ、その巴さんって?」
食堂に居たほぼ全員――男女あわせて二十人ほどが一斉にボクを見た。そして、微妙な雰囲気が漂う。ボクは何か悪いことしたのか?
「石須磨 巴(せきすま ともえ)さんを知らないのか? 生徒会長で成績優秀、スポーツ万能、性格美人、そして、容姿端麗なんだぞ! 俺たちにとっては高嶺の花だが、見てるだけで十分なんだ!」
さっきこっち向いた二十人が一斉に頷く。なんだこの雰囲気は?
「聞いたことはあるけど、ボクは興味ないね」
「お前なあ〜。少し憧れというものを――」
『たっちゃん』がそこまで言い掛けると、食堂の空気が凍りついた。二十人ほどの男女達も凍り付いている。凍り付くとは語弊があるかもしれない。だが、実際凍り付きながら、うっとりしていた。ボクの後ろから、圧倒的な存在感を出している者がいる。思わず後ろを振り返るとその人物は居た。
encounter〜始まりの出会い〜
腰まで伸びるストレートロングの黒髪。空の如く透き通る目。ピンクの唇。端整に整った顔。制服から多少露出する白の肌。すらりと伸びた太もも。この人物こそ石須磨 巴らしい。『たっちゃん』が言うのが、分かる気がした。
「あなたが千葉、さんですか?」
「正確には千葉ではないですが、何か用ですか?」
「石須磨 巴と申します。お願いあるのですが……」
「お願い、ですか? 聞ける範囲で聞きますよ」
「分かりました。では、放課後にでも屋上に来て下さい。お待ちしてますからね」
『たっちゃん』を含めた食堂にいたほぼ全員が言葉をそろえてこう言った。
「「お前、巴さんに何をしたッ!!」」
「何もしてねえよ!」
「いや、待てよ。この展開は、ラブコメ的に巴さんがお前に告白するんじゃないか? いや、そうに違いない!」
「だから、知らないって!そもそも、これラブコメ小説じゃないから! とにかく、先に教室に戻ってるからな」