恋…後編…-1
一巳が亜希子と付き合う(?)ようになって2ヶ月が過ぎようとしていた。最初は細川さんと呼んでいた一巳だが、今では亜希子さんと呼ぶようになった。
亜希子の方は最初から一巳君と呼んでいたが、時折、一巳にだけ見せる女の子の感情をあらわにする部分が新鮮に映った。決して会社では見せないような……
今日のデートも彼女からの誘いだった。
「モォ、遅い!」
待ち合わせに選んだ地下街のコーヒー・ショップに、一巳は15分遅れて到着した。
「ごめんなさい…」
「信じらんない!デートする日に遅れるなんて!私なんか2時間も前に準備してるのよ」
と言ってから気づいたのか、亜希子は顔を赤らめた。その一部始終を見ていた一巳は苦笑する。
一巳は対面する席に座るとコーヒーを注文して、イタズラっぽい目で亜希子を眺める。
「ヘェ〜。意外でした」
バツの悪そうに視線をそらす亜希子。頬をふくらますと、
「そりゃキレイに見られたいじゃない……私だって女の子だもん]
その仕草が妙に愛らしく、一巳の鼓動が速くなった。
「そんな事しなくったって亜希子さんはキレイですよ」
何気に言った言葉に亜希子は頬を赤らめうつ向くと小声で(ありがとう)と言ったきり黙ってしまった。彼には初めて見せた反応だった。
「今日は何処行きます?」
話題を替えようとする一巳。亜希子もいつもの彼女に戻って、
「そう…ね。夕方まで暇だし……ゲーム・センターにでも行こっか!」
「エッ?」
(この歳でゲーム・センター?)
「欲しいモノがあるのよ。行こ!」
と、コーヒー・ショップを出ると地下街を歩いて行く。石ダタミの道沿いには早くもクリスマスの装いを施してあり、イルミネーションが幾層にも重なってきらびやかだ。
亜希子は一巳の腕を取ると、まるで恋人どおしのように組んで歩き出した。一巳は一瞬、ためらったが、やがて笑みを浮かべて並んで歩き出した……
「ホラ、これよ!」
ゲーム・センターに来て亜希子が指をさしたのは、入口付近に置いてあるガラス・ケースにぬいぐるみが入ったゲーム機だ。
「これって…35にもなってこんなモノ欲しいんですか?」
言った瞬間"しまった!"と思ったが遅かった。彼女のパンチが一巳の胸に当たる。