恋…後編…-6
「座って……」
亜希子の促され、一巳は思わず緊張して椅子に座る。
そして、
「ゴメンなさい……仕事で遅れてしまって……」
「…何で……連絡くれなかったの…」
亜希子はうつ向いたままポツリポツリと語る。あくまで無表情だ。それがかえって一巳に不安を感じさせる。
(これは何を言っても言い訳になるな)
一巳は、ただ頭を下げて、
「とにかく謝ります。すいませんでした!」
言い訳しても元に戻るわけじゃない。ましてやガラじゃない。
「私ね……一巳が来ないんじゃないかと思った。…やっぱり他に居るんじゃないかと思った……」
そう言って顔を上げた亜希子の目は、薄暗い部屋の中でも判るくらい涙で潤んでいた。
一巳は驚いた。いつも気丈に振る舞う亜希子とは全く違う独りの女性がそこに佇んでいた。
亜希子の言葉に一巳は哀しくなった。
(オレはまったく信用されてないな…)
「そんな事あるはず無いでしょう!僕が亜希子さんとの約束を反古にするなんて……それこそ亜希子さんが僕を知らな過ぎます…いつもの亜希子さんじゃない」
亜希子は頭を振りながら、
「分かってる……でもね、ダメなの……私だって女なのよ…」
…何かが一巳の中で切れた。
「今、オレは「アンタ」の目の前にいる!それだけじゃダメなのか?」
初めて一巳は、亜希子に対して敬語ではなく対等な言葉を語った。
「100万語の言い訳なんてクソ喰らえだ!オレはアンタの目の前に居る。それだけで良いだろう」
亜希子は一巳が語っている最中、彼の瞳を見据えていた。そして、彼が語り終わるとすっと立ち上がり一巳に歩み寄ると、崩れるように抱きついた。
「ウァ!!ちょっと!」
勢い余って一巳は彼女を支えきれずに床に倒れた。一巳の身体の上に、亜希子の身体が重なり合う。
「大丈夫?」
「エエ、なんとか…」
倒れた際に床に後頭部をしたたかに打った一巳だったが、そんな事はオクビにも出さない。
一巳は薄笑いを浮かべながら亜希子に、
「これはどういう愛情表現なんです?」
亜希子は仰向けに倒れている一巳の上で馬乗りになると、服のボタンをいくつか外した。胸元が露になり、暖色な薄暗さに肌の色が実にいやらしく映る。
彼女の眼には先程までのか弱さは無く、妖しい猛禽類のそれに変貌していた。