恋…後編…-5
数回の書き直しの後、どうにか形になった。最後に、小門のチェックが入り、オッケーとなった。
一巳は時計を見る。午後8時40分!急いで人数分のコピーを取る。コピーの時間がじれったい。やけに長く感じられる……
やっと終わって一部づつを束ね、小門に手渡すと、
「遅くまでご苦労さま。後は良いよ。私が残って仕上げるから」
だが、そう言われては逆に帰れなくなる。
「課長だって、ご家族が待ってるんでしょう?手伝わせて下さい」
一巳が言うと小門は(じゃあお願いするよ)と、笑顔で返した。手分けしてまとめたおかげで、9時半には出来上がった。
「すまなかったね。君一人に頼んでしまって…」
「いえ…」
「どうだい?帰りにメシでも」
小門はそう言いながら、手でコップを口に持っていく仕草を一巳に見せる。
「せっかくですが課長……これから予定が有りますので」
小門は驚きながら、
「君、誰か良い人いたのか!それなら他のモノに頼んだのに……何も言わないから…」
「正直、煩わしいと思いましたが…今は達成感の方が強いんです。だから気にしないで下さい」
そう言って一巳は会社を後にした。
近くの神社から亜希子のマンションの向こうまでの300メートル。
歩道に10メートル間隔で設置されたガス灯の柔かな明かりが道をオレンジ色に浮かび上がらせひとつの帯のように見える。
駐輪場に、一巳はバイクを停めた。
一巳は腕時計を見る。22:50分。
エレベーター横の階段を一気に駆け上がる。
亜希子の部屋のドアにたどり着く。一巳は切れる息づかいを深呼吸で抑えると、チャイムを押した。
(何してたのよ!さんざん待たして)と言う亜希子怒号を一巳は覚悟する。
が、反応が無い。(おかしな?)と思いもう一度チャイムを押す。だが、何の応答も無い。
「居ないのかな?」
仕方なくドアをノックしようとした瞬間、ゆっくりとドアが開いた。
「入って……」
亜希子が出迎える。しかし、いつもの明るさが無い。いつもなら、(いらっしゃ〜い!上がって)というのに。
おそるおそる亜希子の後をついていく一巳。彼女がダイニングのドアーを開らくと、中の照明は消され、燭台に立てられたロウソクの明かりだけが周りを照らして幻想的な雰囲気を醸し出していた。
そのダイニング・テーブルには様々な料理がところ狭しと並べられていた。