恋…後編…-2
「うるさい!"35"は余計だぁ!」
「わ、分かりましたよ…でも、オレ、ゲームやった事ありませんよ」
そう言ってゲームに挑む一巳。要は2つのボタンを押してアームを操作し、ぬいぐるみを掴めば良いのだ。(簡単そうだ)と思った。のが甘かった。一巳はぬいぐるみを動かす事も出来ず、アッという間に千円を使ってしまった。
「ヘタねぇ、貸して!」
見かねた亜希子が一巳に代わってゲームをやりだす。しかし、彼女も大差なかった。結局、買ったほうが安上がりと思うほどの金額をゲームにつぎ込んでいた。
(欲しかったぬいぐるみがゲット出来ずに)ストレスが溜ったのか、亜希子は次にレーシング・ゲームに興じる。運転しているからか、なかなか上手い。一巳は、それを後ろから眺めている。と、奥から打球音が聞こえた。自然と目がそちらを向いた。バッティング・センターが併設していたのだ。
「亜希子さん。僕、ちょっとアッチ行きます」
一巳の言葉に亜希子は反応しない。(よほど頭にきてるのだろう)
一巳はそっとバッティング・センターへと足を向ける。
ゲージ内では数人の客が心地よい打球音を響かせる。一巳の顔が自然とほころぶ。80キロの初心者向けから、130キロの上級者向けとランク分けしてある。一巳は迷わず130キロのゲージを潜る。
一巳は設置してあるバットを握ると、お金の投入口に硬貨を入れる。スタートだ。球が風切り音をあげて向かって来る。一巳はバントの構えをしてボールに当てる。
ボールの転がりに満足気な一巳。次は普通に構えると、ライナーでセンター方向へ打ち返す。その後も全て芯に当てて打ち返す。30球打ち終わると、後ろから拍手が起きた。亜希子だった。
「スゴい、スゴい!!」
(いかん!打つのに夢中で彼女の事忘れてた)
照れ笑いを浮かべながら、ゲージから出てきた一巳に亜希子は興奮気味に、
「アナタにそんな才能が有るなんて。知らなかった」
「中学まで野球やってたんです……5年間やってなかったんですが、まだイケますね」
そう言って屈託のない笑顔を見せた。
ー夕方ー
「メイン・イベントの前に軽く食べようか」
と、一巳を連れてメイン・ストリートから狭い路地に入る。その路地は軽自動車も入れないほど狭く、軒先のため、日光が遮られ薄暗く感じられる。
(こんな場所に店なんかあるのか?)
不安気な気持ちで一巳はついていく。すると、周りの暗さに抵抗しているように、黄色の建物が右に見えた。
「ホラ、あそこ」
亜希子が誘った"軽く食べる場所"は、ホット・ドッグ・スタンドだった。3メートル四方のプレハブは、黄色のペイントがところどころ剥がれ落ちており、建物と言うより小屋の表現がぴったりだ。その小屋の横にはイスやテーブルが置かれている。オープン・カフェを真似たつもりなのだろう。
彼女の"おまかせ"で注文したホット・ドッグとコーラを摂ったが、マク〇ナルドあたりのジャンク・フードと違い、ちゃんとグリルで調理してある。
味も絶品だ。少し酸味のあるマスタードがビーフ・ソーセージに良くマッチしている。