恋…前編…-7
「なんです!やぶからぼうに」
「だって私の恰好見て何の反応も無いんだもの。ワザとこんな恰好したのに」
そう言われて見れば、シャツの胸元は大きくはだけスカートも膝上でしゃがむと太ももがかなり露出する。一巳は鼓動が速くなり手が汗で濡れるのを覚えた。それは亜希子の姿を意識したからだけでは無かった。
「そりゃ行きずりの女性なら反応するかも。でも細川さんは会社の先輩だし……考えた事も無かった」
「エーッ、ショック。10代のヤリたい盛りのコが見ても反応しないなんて……私って魅力ないかな?」
一巳は(ヤバい!)と直感で感じ取り、亜希子に言った。
「大分酔いました。そろそろ帰ります」
時刻は10時を過ぎていた。
「泊まっていけば良いじゃない。私はもう送れないから」
「イヤ、タクシーで帰ります」
そう言いながら立ち上がる一巳。亜希子は彼の腕を取って、
「待って。ここからじゃ3千円はくだらないわ。泊まりなさいって」
「あの……僕も男ですから…」
搾り出すように言った一巳の一言に亜希子は一巳の顔を下から覗いて、
「その時は責任取って恋人になってくれる?」
そう言った亜希子はイタズラっぽい目をしていた。一巳は(やられた)と思い、
「……子供は帰ります」
と言うと亜希子は笑いながら、
「そうね。送ってくわ」
と立ち上がる亜希子だが、酔っているのかヨロけた。それを支えようとする一巳。アクシデントとはいえ亜希子を抱き止める形となった。
彼女の匂いが一巳の鼻孔に広がる。直接、何故そんな事をしたのか自身わからない。気が付いた時には彼女を抱きしめていた。
「一巳君、…ちょっと…」
我に還って亜希子を跳ね退ける一巳。
「す、すいません!帰ります」
表に飛び出て手を眺める。まだ亜希子の余韻が残っていた。細い肩……(あれじゃ変態だ!)自己嫌悪に陥る。
「何故あんな事に……明日、どんな顔で会えばいいんだ……」
夜風を浴びながら歩く。道は日曜の夜とあってクルマはほとんど走っていなかった。(仕方ない)と一巳は言うと、近くの駅の方へと歩き出したのだった……
―朝7時40分―
タクシーから降りる一巳。昨日から会社にバイクを置いているので、タクシーで来るしかなかったのだ。
アクビが出る。昨日はなかなか寝つけなかった。あんな事があったせいか……
いつもは8時15分くらいに出社する一巳だが、早めに会社に来た理由は亜希子と顔を会わせないためだ。
一巳の施設管理部は1階に有り、亜希子の居る総務は2階だ。更衣室は3階にあるため、どうしても総務のそばを通る必要があるためだ。
一巳は3階に上がると、そそくさと作業服に着替えて2階を通り過ぎようとした時、声が掛った。