恋…前編…-6
「たくさん有るから呑んでってね」
一巳もこれには困惑し、
「呑んだら帰れなくなりますよ」
「大丈夫よ!私が送ってあげるから」
「知りませんよ…」
一巳はそう言うと、缶ビールを傾けた。朝から動き回ったせいか美味い。半分くらいを一気に呑んだ。
「いい呑みっぷりね!学生の頃から相当呑んでたんじゃない?」
「たまに…元々アルコールは強いみたいで」
一巳は缶ビールをテーブルに置くと、野菜炒めを口に運んだ。
「アッ!これは美味い。火のとおりが絶妙です!ほのかな醤油の香りも良いですね」
亜希子は驚いた様子で、
「やけに詳しいのね。藤野君、料理出来るの?」
「ええ。子供の頃、母の料理を見よう見まねで作ってましたから。今は趣味で時々作ります」
「じゃあ藤野"シェフ"から見て私の料理は何点?」
そう言いながら小首を傾げ上目づかいに見る亜希子。一巳はしばらく考えてから、
「90点です」
「エーッ!、満点じゃないのォ。何がマイナスなの?」
「唐揚げが…薄く感じられました。それと味噌汁も……まあ、好みの問題ですから]
それを聴く亜希子の目は一巳を睨みつける。(また酔った勢いでよけいな事を…)と、思いながら冷や汗をかく一巳。それを見た亜希子はプッと吹き出し、
「アハハハッ!ウソよ」
と優しく微笑んだ。
亜希子との食事は楽しく会話が絶える事は無かった。いつの間にか買い込んだビールを二人で呑み干していた……
「一巳君は彼女はいるの?」
アルコールがビールから日本酒に変わった頃、亜希子が突然訊き出した。頬の赤みからかなり酔っているようだ。
「今はいませんよ」
「じゃあ前はいたの?」
「ええ。少し前に別れました」
「そう、私もね…彼と最近別れたの……それでここに越したの…何だかイヤになって……」
亜希子の瞳に愁いが走る。少し目が赤い。
「………」
理由を聞いても、一巳にしてやれる事は無かった。それに気づいてた亜希子は、
「ごめんなさい。変な話になっちゃって……ところでサ!一巳君は童貞?じゃないよね」
一巳は思わずコップの酒を吹き出しそうになった。