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恋…前編…-5

「これって…マンションじゃないですか!」

「ウン。おかげで貯金が無くなっちゃった」

と、おどけて見せる亜希子。だが、一巳には笑えなかった。頭金だけでも相当な額だろう。そう考えると、何かワケありだと思った。しかし、それには触れずに一巳は荷物運びに精を出した。彼女の部屋は6階建ての3階の一番奥だ。エレベーターで数回に分けて運び込む。

「さ、入って」

そう言われ(失礼します)と入った部屋は、ほとんど荷物が無く実に殺風景だ。アイボリーの壁にフローリング。窓のカーテンに小さなテーブルにベッド。と必要最低限なモノは置いてあるようだ。

早速、買った物を亜希子の指示のもと一巳が配置する。その様子は長良川の鵜飼いのようだ。
(うーん、もうちょい右)と言われ、その通りに移動させると、(やっぱり元に戻して)とか(ソレとコレは入れ替えて)などと、さんざん移動させた結果、ようやく配置が完了した。

「やっぱり見違えるようになったわ!」

と亜希子。だが、一巳は(どこが変わったの?)と思ったが、それを言うわけにもいかずに、

「そのとおりですね!」

一巳は心にもなく相槌を打つ。


(ゴハン作るから食べて行きなさい)と亜希子に言われた時、時刻は6時をかなり過ぎて外は暗くなり始めていた。

「いえ、帰りますよ」

暗くなって恋人でもない女性の部屋に居るのは何となくイヤだった。まして彼女は会社の先輩だ。
だが、亜希子も納得出来ないのか、

「それは悪いわ。朝から付き合わせて何のお礼もしないなんて……それに一人で食べるより二人の方が美味しいでしょう」

そう言われて一巳は、(じゃあ、お言葉に甘えて…)と、手料理をいただく事にした。

ジッと待つのも手持ちぶさたなので、許しをもらってテレビを見ながらタバコを吸う。亜希子は鼻歌まじりに料理をしていた。一巳は画面を観るふりをして、彼女の後ろ姿を追っていた。耳も彼女の声を聴いていたのだった。


(味は保証しないけど…)と亜希子は一巳の前に料理を並べる。トリの唐揚げに野菜炒め、豆腐の味噌汁。偶然にも、一巳の好物ばかりだった。

「いただきます!」

唐揚げを一口食べる。

「どう?」

と、一巳の顔を覗き込み、次の発言を待つ亜希子。

「美味しいです!」

少し薄味だが、スパイスの効いた好みの味だ。

一巳の言葉にニッコリ笑う亜希子。そして、思い出したように立ち上がると、冷蔵庫から缶ビールを出して一巳に渡す。


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