恋…前編…-2
一巳は頭を垂れて、
「…すいません。つい、カッとなってしまって……」
細川が窓に近づく。肩口の長さでウェイブした髪が夜風になびく。心地よさそうに目を閉じる。頬はほのかに赤みがかっている。
「すいません……お名前を教えてもらえます?」
一巳の言葉に閉じていた目を開け、彼に顔を向けると、
「細川亜希子……総務課よ。アナタは藤野一巳君」
一巳は酔っていた。でなければ頭に浮かんだ事を、そのまま口にするわけがない。
「お幾つなんですか?」
と、訊いた時、我ながらバカな事を言ってると思った。女性に歳を訊くなんて……
しかし、細川は気にする様子もなく、
「幾つに見える?」
と、目を大きく見開いて歯を見せておどけた仕草を見せる。一巳は、彼女から2〜3歩さがり顔の艶や身体の線を見ながら"ン〜?"とうなった後に、
「30ですか?」
と言うと、彼女は"ニ〜ッ!"と笑いながら、一巳の耳元に手をあてて、
「35…」
そう言いながら恥じらう仕草を見せた。一巳には実に新鮮な反応で、可愛らしさと共に感情の昂ぶりを覚えた。
「エッ!?とても見えませんよ。僕、30でも多めに言ったんですよ」
本心を言ったつもりだが、言い方がワザとらしかったようだ。彼女は喜んびを表現するでなくただ微笑んで、
「ありがとう。さ、戻りましょう」
言われるままに、二人は座敷に戻って行った。
(知性と色気を感じさせる)細川に一巳は親しみ以上のモノを感じていた。……
「藤野君、今度の日曜日空いてる?」
秋晴れの陽気。昼食後の昼休みに同僚達と談笑している一巳のもとに、細川が来て(いいかしら)と訊いたのだ。
「はあ…特に予定はありませんが…」
「良かったー!買物に付き合ってくれない?」
「はあ、良いですけど」
聞けば彼女は最近、彼女は引越しをした。その際に古いモノを処分して、足りないモノを買い出しに行くのだそうだ。
(朝10時半に会社の前で)と言われて一巳はバイクで門の前に来た。腕時計を見ると10時20分。少し早かったのか、細川はまだ来ていなかった。バイクから降りるとそれを背にしてタバコを吸う。
空は高く、彼方には鰯雲が見える。良い陽気だ。
と、バタバタと独特のエンジン音を響かせながら、水色のミニ・メイフィアがこちらへ向かって来た。
クルマは一巳のそばに停まると、中からサングラスを掛けた女性が降りてきた。亜希子だった。