恋におちるとき-1
春…。
それは新生活の始まりであり、新たな風の吹く季節。
人はそれを『恋の風』とも呼ぶ。
「結局三年間一緒のクラスかよ」
「何だその反応!」
うんざりしたように言う俺の肩を、後ろから軽く叩くニッタ(仁田)。
俺とニッタは中学からの部活仲間で高校三年間同じクラス。
腐れ縁ってやつだ。
浅く椅子に座った俺は、新しいクラスのメンバーを確認するように教室内を見渡した。
なんせ、まだこのクラスになって四日。
いまいちクラスのメンバーを把握できずにいたのだ。
「あっはははは!」
一昨日から聞き慣れるようになった笑いの声の方に目をやる。
視線の先にはツンとしたオーラを放つ猫目の美人。
「伊勢(イセ)さん美人だよな〜」
ニッタが後ろから見とれるように呟いた。
伊勢さんとは去年、体育の授業が一緒だっただけだが、少し近寄りがたいあの独特の空気が俺の中で一際目立っていた。
席は俺の斜め前で、友達と話す彼女の色っぽい声がよく耳に届いた。
どんなクールな子かと思いきや、無邪気に声を立てて笑うギャップに驚いた。
「梶(カジ)はいいよな〜」
突然ニッタはそう言った。
俺は深く椅子に座り直して振り向いた。
「あ?何が?」
「伊勢さんと仲良いじゃん」
「いやいや、挨拶する程度だし」
一応顔見知りということで挨拶くらいはする。
それを他の奴らは羨ましがる。
「何か相手にされなさそーって言うか…話しかけるのに勇気いる」
ニッタはそう言って、相変わらず伊勢さんの方に目をやっていた。