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雪の少女
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雪の少女-1

「お〜、雪か。」
 青年は空から舞い降りる美しき粉雪に見とれていた。
「純君。」
 呼ばれた方を見ると、そこには真っ白いワンピースを着た少女が立っていた。
「君は………」
「もうすぐ会えるからね。」
 そう言うと、少女は走り去って消えていく。
「おい、待ってくれ!待ってくれよ……」──

 青年、日向純(ヒュウガ ジュン)は、自室のベッドの上で目を覚ました。
「またあの夢か…。」
 いつもではないが、よく見る夢。それも冬の時期に限って見るのである。空から降る雪と、少女の夢。初めて見たのは8年前の冬、純が小3の時だ。
「わぁ、純君だ。やっと会えたね。ずっと会いたかったんだよ。」
 夢の中でそう言われた。最初は不思議に思っていた純だが、しだいにその少女と打ち解けていった。その夢は冬にしか見ることができない。春が近づくと、少女は決まってこう言う。
「また冬に会おうね。」と。
 そして目が覚めると、また冬が待ち遠しくなる。夢ではあるが彼女に会うことができる。その理由から、純は冬が好きだった。

 今は12月、冬真っ只中である。純はベッドから起き上がり、朝食、及び弁当の準備を始める。
 ここはアパートの一室であり、純は一人暮らしをしている。両親は海外企業で働いていて、月に一度、それなりの金額を仕送りしてくれるのだ。
「今年の正月も帰って来ねぇな、あの親。」
 正月くらい帰ってきてほしいものだが、忙しいからしょうがないと諦める。
「あと1年ちょいで卒業か…。早く職に就きたいなぁ。」
 現在高2である純は、進路希望調査で、迷わず就職と答えた。担任には進学はどうだと聞かれたが、
「大学には金が懸かる。俺はとにかく、早く自分で稼ぎたいんだ。」
ときっぱり答えた。別に金銭に欲深いわけではない。ただ、両親にばかり頼っていてはいけないと思うからである。

「んじゃ、行ってくるぜ。」
 自分の部屋に言って、純は学校へ行く。高校から近いアパートに住んでいるため、歩いて登校するのが日課だ。寒い朝、白い息。1人で学校へ行くのも寂しくはない。特に、雪の少女の夢を見た日の朝は、純の心は清々しく感じられた。

 1時間目が始まる前、純のクラスの担任が皆を座らせた。
「え〜、今日からこのクラスに新しい仲間が増えることになった。皆仲良くしてやるように。それでは入って来なさい。」
 その時教室に入ってきたのは、白い肌に綺麗な長い黒髪をなびかせた女の子だった。
「天野小雪(アマノ コユキ)です。よろしくお願いします。」
 美少女と称されてもおかしくない容姿に、透き通ったかわいい声。男子生徒には好評のようだ。ただ1人、純を除いては。
「あの子、どっかで見たことあるような…?」
 そんな疑問が頭の中に浮かんでいたのだった。「…じゃあ、席はそこの日向の隣な。」
「えっ?」
 純が隣を見ると、すでに空席が用意されていて、転入生・天野小雪はそこに座った。
「よろしくね、純君。」
「あ、あぁ。よろしく…。」
 純は何気に返答したが、ある事に気付いた。
(まてよ、先生は『日向』としか言ってねぇし、俺は自己紹介なんてしてないのに、なんで俺の名前知ってんだ?)
 気になって小雪の方を見てみるが、小雪は何事もないかのように、真新しい教科書を開いていた。
(何なんだ、この子は…?)
 純は気になって、その日の授業には身が入らなかった。


 放課後、帰ろうとしている純を小雪が呼び止めた。
「天野さん、どうかしたの?」
「うん、純君といっしょに帰ろうと思ってさ。いいでしょ?」
「え?あ、あぁ。うん、いいよ。」
 突然、見覚えがあるといえど初対面の女の子に、いっしょに帰ろうと言われ、純の頭の中は慌ててしまった。
「けど、天野さんの家ってどこら辺なの?」
 純が尋ねると、小雪は笑いながら答えた。
「純君の家に近いよ。このクラスの誰よりもね。」
「はぁ?何言ってんだよ。」
 そう言いながらも、純は小雪と共に学校をくぐり抜けた。
 この時、いくら近いといっても、せいぜい2、3軒隣だろうと、純は思っていた。しかし、その考えは純のアパートに着いた時に、見事に裏切られたのだった。


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