針のない時計-9
止まったままの私の時計は、もう二度と動くことはない…憎むべき自分を忘れないためだけにハルを縛り付けていたい自分が、やはり憎い…
私、瓜生の寝息を感じながら、全てを飲み込んでハルへ笑顔を見せる。
「頑張ってね…」
「ありがとう…咲…」
ハルの笑顔が痛い…痛い…
あれから何事もなく2ヶ月程過ぎた…
いや…変わったことが一つある。ハルがバイトを変え、ペットショップで働きだしたのだ。
「ただいまー…」
ハルが動物臭と共に帰ってきた。
「お帰り…ハル楽しそうだね〜…」
「まぁ…動物好きだしね…」
そう言って笑顔を見せるハル。
ハルの楽しそうな姿に私は不安になる。
何かを見つけてしまったのではないだろうか…
そうなれば此処を出ていくだろう…
「咲、明日仕事?」
シャワーを終え、石鹸の香りを漂わせながらハルが私の隣に腰を下ろした。
「そうだけど、何?」
「いや…明日さ〜仕事早く終わりそうだからrococo行かない?」
「…いいよ、ハル…本当瓜生が好きだね」
私の一言で顔を赤らめたハル。
「…でも、片思いだよ」
ハル、赤い顔のままうつむいた。
「…でも、ハルかわいいよ」
そんなハルの頭をそっと撫でた。
「…咲は…咲はどうなの?」
どきっー
「何がよ…」
「瓜生の事好きなんだろ?」
どきん…どきん…
私の鼓動が速くなる…
私、ハルの髪の毛をもう一度撫で、指から伝わる感覚に現実感を確かめた。
「好きなんだろ?」
ゆっくり顔を上げたハル、その顔…仕草を見て、私は自然と首を横に振っていた。
「…でも協力なんかしないよ」
「……うん……」
何となく、予感はあった。
周りばかりの時間が流れ、私の時間だけ進まないから…だから感情がついて行かない。無くしたい…こんな感情(もの)…こんな感情(もの)壊れてしまえばいいのに…
翌日、約束通りにrococoに来た私達。
「いらっしゃい、瓜生君あそこよ」
そう言って笑顔で迎えてくれたのは清香(きよか)さん、店長の彼女だそうだ。清香さんがrococoに来たのは桜の季節だったから2ヶ月位経つのかな…
「ああ〜…久々だー…」
ハル、ビールを流し込み、大きくため息をはく。
その日は随分二人で盛り上がった。
珍しく瓜生の話をしないハル、ちょっと違和感を感じたけど…あのムカムカする感情(もの)を感じない分、梅酒が進んだ。
「おい…大丈夫か?」
帰ろうとする私達を瓜生が引き止める。
「タクシー呼ぶから」
「はぁ?!あんたも帰んのよ!!」
と…私が仕事中だった瓜生を連れ帰った…らしい…
「…だよ…でも、俺は瓜生の事好きなんだ」
ーん?…
私の意識が戻ったのはハルの告白の言葉だった。
ー…夢?…いや…現実(ほんと)?…う〜…
「ハル…ありがとな…けど、俺やっぱ咲の事好きだから」
ドキっ…
「うん……ああ〜…スッキリしたー…」
ーちょっ…
私の意識が鮮明になっていく。
「でも瓜生さー…淡々と振ってるけど、俺男だよ…気持ち悪いとかないの?」
「…人を好きになるって凄いよな…こんな自分もいるのか…って驚く事も出来るし、今までどうでもよかったモノまで大切だって気づくし…いいんじゃねーの?男が男好きになっても」
「うん……」
それから静かになった部屋に耐えられず、二人が寝たのを見計らってベランダでタバコ吸った。