トシキ@-2
「いったん家に引き返すか‥‥」
だが周りを見渡すと、視界に入るのは砂漠と地平線だけだった。もちろんコンパスなんて持ってない。
「ひ、ひぃ‥‥‥」
トシキは恐ろしさのあまり、おしっこをもらしてしまった。砂漠で水と方向を失うこと。それは死を意味することは子供でも知っている。
「ちっ‥‥くそが‥‥」
そう。トシキは典型的な『キレやすい若者』だった。
「とりあえず太陽に向かって歩くか。俺は運だけは自信があるんだ。かならず何かを見つけられる自信がある」
(ザッザッザッザッ)
(ザッザッザッザッ)
だが、6時間たっても木の一本すら見当たらなかった。と、その時
「た、太陽が!!!」
昼を過ぎていたために、太陽はすでに真上にあった。これでは方向が分からない。
「もうダメだ‥‥‥」
(バタッ)
トシキは倒れてしまった。
「‥‥‥‥ぞう‥‥‥‥‥こぞう‥‥‥‥‥小僧!」
目を覚ますと、目の前には顔面毛むくじゃらの親父が立っていた。
「ほ、掘られる!!」
トシキの本能は毛むくじゃらの親父を危険と察知し、肛門を自然と絞めさせた。
「バカなこと言ってんじゃねぇ。お前さんが砂漠のど真ん中で倒れてたから助けてやったんじゃねぇか。」毛むくじゃらの顔をよく見てみると耳の穴からも毛がはえていた。
「あ、ありがとうごぜえます‥‥‥」
「それよりアンタ、足跡から見て東へ向かってるみたいだけどドコに行くつもりだい?」
毛むくじゃらは鼻毛とも髭とも分からぬ物体を触りながら尋ねた。
「東?バカ言っちゃいけねぇ。俺は朝日に向かってまっすぐ歩いてた。つまり西に向かってるんだよ。ドューユーアンダスタン?」
「お前バカだろ?太陽は東から登り西へ沈む。つまり、お前さんは東へ歩いていたんだよ。」
(がーーーーん!!!)
トシキは目の前が真っ暗になった。
「ガハハ。まぁ、これで1つ勉強になっただろ。じゃあな、俺は急いでるんでな」
毛むくじゃらはラクダに乗った。
(バキッ)
トシキは毛むくじゃらに殴りかかった。この毛むくじゃらは、町に戻ったら近所に俺のことを笑い話として言いふらすに決まってる。そんな系統の顔をしてる。トシキはそう思った。
(バキッドコッベキッ)
トシキは毛むくじゃらに殴りかかった。殴った殴った。その数、実に38発。毛が多いせいか、その防御力はマンモス級だった。
「ふぅ‥‥しぶとい毛むくじゃらだったぜ」
トシキは毛むくじゃらの胸にネームプレートを発見した。どうやらどこかの町役場の役員らしい。
「こいつなんて名前なんだ‥‥‥‥なになに?‥‥‥‥む、‥‥‥ムック‥‥‥‥ムック!?ギャハハハハハ!!そのまんまじゃねぇか!!」
これが後のムックである。
トシキはムックから水とコンパスを奪って再び歩きだした。