聖なる夜に…-6
[オマエ自宅の住所は?]
[〇〇区〇〇町です…]
突然、タクシーが沙耶達の横に停車した。敦が呼んだのだ。敦は沙耶に千円札3枚を渡すと、
[これで足りるだろう。これで家に帰れ]
そう言うと半ば強引に沙耶を後部座席に載せると、"運転手さん〇〇町まで!細かい場所はこの娘に聞いてくれ"と言って彼女を自宅へと帰らせた。タクシーが発車するのを見送る事もなく、彼はビルの中へと消えていった……
7:40分…沙耶は自宅から少し離れた場所でタクシーを降りた。車内の暖房のせいか、朝の冷気が心地よく感じられる。
玄関の門を潜り、玄関扉に手をかける。閉まっているはずの扉が開いている。不思議に思いながらも沙耶は中に進んだ。すると、キッチンのテーブルで母の香織が眠っていた。
[…おかあさん……]
沙耶の口から自然と声が発っせられた。その声が香織に届いたのか、彼女は目を開け沙耶を見た。
[…ゴメン…おかあさん…]
感情を抑えきれない沙耶は、それだけ言うのが精一杯だ。それを見た香織はニッコリ笑うと、
[お腹空いたね、ゴハンにしましょ]
そう言うと青白い顔でキッチンに向かい朝食の用意を始めた。沙耶は母の後姿が妙に小さく感じられ、思わず後から抱きついた。香織は一瞬驚きの表情を見せたが、直ぐに柔和な顔になり、
[…なあに…小さな子供みたいに…]
そう言う香織も涙声だった……
夕方……沙耶は約束通り敦の会社のあるビルの表玄関へと向かう。
最寄りのバス停で降り、歩いていくと、昨夜敦と出会ったコンビニだ。昼夜の違いもあるだろうが、今は穏やかな気持ちで見れる。昨夜は"すがるように"闇にくるまっていた……
敦のビルのすぐ傍まで来た。ふと見ると人影が見える。夕闇に隠されて顔立ちまで解らないが男の人だ。
沙耶は身を硬くしながら恐る恐る近寄る。と、瞬間クルマのライトに男の輪郭が映し出される。敦だ!
沙耶は思わず駆け出していた。敦の前に立つ沙耶。荒く息を切らしながら……敦も目の前の沙耶をニッコリ笑顔で出迎える……
[どうやら良い事があったようだな?]
敦の問いに沙耶は荒い息を調えながら答える。
[……うん!…敦のおかげ…ありがとう…]
[あい変わらず口のきき方を知らないな……年上には敬語で喋るんもんだぜ……"敦さんのおかげで仲直り出来ました。ありがとうございました"ってな]
沙耶は頬を膨らませて不満気な顔をすると、
[ハイハイ!敦さんのおかげです。ありがとうございました!]
敦はニヤリと笑って、
["ハイハイ"は余計だ!]
そう言うと大声で笑い出した。見ていた沙耶もつられて笑ってる。