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Identity
【SF その他小説】

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Identity 『一日目』 PM2:28-1

 ……人が死んでいく。
 自分の親しい者たちが。
 友人、恋人、ライバル。
 病気でも事故でも自殺でもなく。殺されていく。
 しかも、殺人者はたった一人の、血の繋がった家族なのだ。
 考えてみてほしい。
 自分の……家族でもいい。友人でも、恋人でもいい。
 自分の身近な者が、血に飢えた殺人鬼だったら。
 
 ――君なら、どうする?
「――――えっ……!!?!?」
「えっ、じゃない、透流」
 河崎透流<カワサキトオル>は手にしていた小説から顔を上げた。
 そこは勿論、今読んでいたようなミステリーのように血生臭い空間じゃない。
 バスの中、四十人近い人間が、わいわいとおしゃべりやら何やら楽しんでいる。
 透流たち、私立天宝高等学校二年生は今、学生生活最後の修学旅行の次なる目的地に向かう真っ最中だ。
 朝の七時からバスに揺られ、用意していたバス内でのレクもつき、それぞれのグループがトランプやウノなどのカードゲームや、牛タンゲームや数取りゲームなどの特に道具がなくてもできる遊びを楽しんでいる。
 だけど透流は。
「折角の修学旅行、お前は本ばっか読みやがって。……っていうかバスで読んだら酔わねぇか?」
「俺は三半規管が強いんだ」
 大原誠<オオハラマコト>は透流が本ばかり読んでゲームに参加しようとしないのが不満らしかった。
 透流と誠は親友と呼べる間柄で、透流がどちらかといえば消極的で人と関わろうとしないタイプであれば、誠はその逆で、ネアカと言っていいほどに明るい性格をしている。そして誠は透流の秘密を知っている唯一の人間であった。
「今何やってんの?」
「ダウト」
「あー、俺パス。勝つとわかっててやってらんね」
「あー、くそ。俺にも……」
 ここで誠は声を潜めた。
「……悪い」
「別にいいって」
 透流は苦笑する。誠が何を思ったのか、口に出さなくても“声”で聞こえていた。
 ――俺にも人の心がわかればな
 誠の“声”はわざわざ耳を“塞が”なくても、言っていることと思っていることが一緒なのであまり気にならない。誠が思っているほど、透流は“声”が聞こえることを苦にしているわけではなかった。
 あくまで今現在の話だが。
「カンニングのときとか便利だし。ゲームは簡単に勝てるし」
「ずりぃな、ああ、神様はなんて不平等なんでしょう」
 手を合わせて祈る姿は妙におかしい。つい、笑いを誘われてしまった。
「誠、河崎。おまえらやんねーの?」
 誠がゲームから外れたのを見て、男子たちが声をかけてきた。
 瞬間、透流は耳を“塞ぐ”と返事を返す。
「ダウトやってんだろ? ダウトっていつまでたっても終わんねぇじゃん。大貧民ならやる」
「透流、自分の得意なゲームだけをやろうったってな、世の中そんな甘かないぞ?」
 説教じみた、絡み口調で誠が言うと、どっと笑いが起きた。誠が話すと必ず笑いが起きる。誰に対しても好かれる人物がいるとすれば、それは誠だろうと透流は思っている。
「ねぇ、何やってんの?」
 藤村淳<フジムラジュン>が声をかけてきた。イマドキの子で、流行の服や化粧もするし、男子に対しても普通に接する。猫のような顔で、人懐っこく、割と単純というのが周り(というより透流の)の印象だ。
「トランプ。ダウトか大貧民か、次何やるか決めてるとこ」
「そう。璃俐、どうする?」
 禮宝璃俐。この子の名前を一見で読める人間はなかなか少ない。<ライホウリリ>と読むが、名前に比べて、性格はどこのクラスにも一人はいそうな、真面目そうで大人しそうで図書館で本を読んでいるのが似合いそうな子だ。偏見かもしれないけど。


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