刃に心《第22話・人は何故、争うのか?》-1
「で、どうする?」
疾風が『その他・7人一組のチームで参加すること』と書かれた一文を示したまま、問い掛けた。
「…まあ、仕方ないですね」
朧がポツリと呟いた。そして、楓達の方を向く。
「皆さん。気持ちは判りますが、此処は一旦手を結びましょう。このままでは出ることすら叶いません」
「…そうですね」
「…こんな性悪と一緒なのは嫌だけど、この際仕方ないか」
「……不本意だけど、異論はない…」
何とか意見がまとまったのを見て、疾風はやれやれといった表情で椅子に腰掛けた。
「では、温泉旅行は全員で行くということで」
「…まあ、頑張ってください」
この分なら俺は必要ないだろう。
そう思って、疾風はゆるゆると手を振った。
「何を言ってるんですか、疾風さん。疾風さんもチームに入ってるんですよ」
「へっ?ちょっ、ちょっと待ってくださいよ!」
疾風は声高に立ち上がった。
だが、周囲からは『頼りにしてるぞ』的な視線を向けている。
疾風は漸く気付いた。すでに自分は戦いの歯車に組み込まれていて、止めることはできないのだと。
《第22話・人は何故、争うのか?》
◇◆◇◆◇◆◇
「で、此処は何処なんですか?」
目の前には町工場といった年期のはいった建物が佇んでいる。
「月路の分家。簡単に言えば、私の親戚の家です」
「先輩の親戚?」
「ええ。チームメンバーにどうかな、と思いまして。腕は確かな忍ですのでご安心を♪」
すると、朧は呼び鈴も押さずに、工場の奥へと歩いていく。
残った4人はどうしようか、と顔を見合わせた。
だが、朧は機械や機材を避けて、どんどん進んでいく。
仕方なく疾風達はお邪魔と一言、言ってから朧の後を追った。
◇◆◇◆◇◆◇
工場の奥では、作業台に座り、凄まじい速さで何かを組み立てている者がいた。
刃梛枷と同じくらい小柄な身体に煤けた繋ぎを着て、顔には大きなゴーグルをかけている。
「こんにちは♪眞燈瑠さん」
朧が声をかけるとその者は手を止め、ゴーグルを額へ押し上げた。
露になる何処か猫を連想させる大きな瞳。
「おぼ姉じゃないッスか!急にどうしたんッスか?」
「今日はちょっと頼みがありましてね♪」
「あ、もしかして大会のことッスか?」
「ええ♪私達と一緒に出ませんか?」
「別にいいッスよ。ん?後ろの人達は…?」
眞燈瑠と呼ばれた人物は立ち上がって、朧の肩越しに疾風達を見た。
「えっと、初めまして。俺は…」
「疾風先輩じゃないッスかあああ!」
自己紹介を途中で止められ、疾風はキョトンとした顔になった。