刃に心《第22話・人は何故、争うのか?》-9
「それにしてもいろんな所から来てるな。てか、何処だよ…この〈ヘルミッションネルズ〉とかコアなチーム名付けてるのは…」
だが、疾風はもっと風変わりな名前を見つけてしまった。
名称、〈『…貴女さえ…貴女さえいなければ!』『やめて!お腹にはあの人の子供が!』『五月蝿い!この泥棒猫!』〉チーム。
消去法で考える以前にこんなチーム名を付けるのは朧に他ならない。
「…先輩、何で台詞なんですか?しかも、よりによって修羅場の…」
「ダメですか?」
朧のにっこりとした顔を見て、肩に疲労がのし掛かってくるのを感じた。
「ほら、やっぱり疾風だって反対したではありませんか」
「やっぱり、楓もそうおも…」
「だから、〈白黒の愛らしいあやつ〉チームの方が良いと言ったのです!」
「いや、それも…」
「疾風もそう思うであろう?」
楓は同意を求めるように疾風の顔を覗き込んだ。
(楓って、結構ずれてるんだよなぁ…)
疾風は呆れたように心の中で呟いた。
しかし、何故かそれが微笑ましくも思え、いつの間にか、ふっと唇を歪めている自分がいた。
呆れから来るものなのかもしれない。
だが、それとは何処か違うような気もする。
疾風にはその気持ちが何なのかよく判らなかった。考えれば考える程、坩堝に嵌まり、混乱していく。
───キーンコーン…
戦いの鐘の音が響き渡った。
疾風は即座に思考を切り替え、皆を見回した。
「行こう」
全員が無言で首を縦に振る。
疾風は肩にかけたサブマシンガンを構えて、教室を飛び出した。
◇◆◇◆◇◆◇
教室を出て、すぐさまサブマシンガンの銃口を廊下の左右に向ける。
「OK」
疾風が手で合図を送る。それに従い、残りのメンバーが教室を出た。
「…いないな」
「では、彼方さん。階段まで様子を見てきてください」
「サー!イエッサー!」
そう叫んで彼方は薄暗い廊下を走っていった。
「一人で大丈夫ですかね?」
「大丈夫でしょう。霞さん曰く、あの彼方さんは通常の彼方さんの三倍の戦闘能力を有していると言いますし」
「でも、元の彼方の三倍って常人よりも僅かに強いくらいだと思いますけど…」
「まあ、心配していても仕方がありませんよ」
朧はそう言って、両手に握った拳銃の安全装置を解除する。
「…それにいざとなれば、弾除けとして使う手も有りますしねぇ♪」
朧が小声で呟く。
「…先輩。今、何か不穏な事をさらりと言いませんでした?」
「いいえ♪言うわけないじゃないですかぁ♪あ、戻ってきましたよ」
話を逸らされた感は否めないが、朧の言葉通り、月明かりに彼方の姿がうっすらと浮かび上がる。