刃に心《第22話・人は何故、争うのか?》-5
「どう?」
「はい、霞。集合」
「何?」
「ナンダコレは?」
「私の催眠暗示によって生まれ変わった彼方先輩。その名も田中彼方上等兵」
疾風は彼方を見遣った。敬礼こそ下ろしていたが、未だ直立不動の状態を保っている。
「彼方上等兵、休んでいいわよ」
「はッ!」
霞の言葉で漸く姿勢を崩す。とは言っても、体育会系の休めだが。
「暗示は大会が終わるまで有効。大会が終われば、全て綺麗さっぱり忘却。
且つ事情の知らない者の前では普段と変わらない振る舞いをするようにしておいたわ。
しかも、戦闘能力は通常の彼方先輩の三倍よ」
霞は自信満々というような顔で彼方の性能について語った。
「彼方自身は大丈夫なんだろうな?」
「当たり前に決まってるでしょ。私を誰だと思ってるの?」
心配そうに尋ねた疾風に対し、霞は実にあっけらかんとした言葉を返す。
「コレ…どうしよう?」
疾風が本当にどうして良いやら判らないというように、苦笑いとも愛想笑いともつかぬ笑みを浮かべる。
だが、楓達も同じ気持ちだったようで、曖昧な笑顔を見せるだけだった。
「そんな悩まなくてもいいじゃない。メンバー足りないんでしょ?彼方先輩、使ったら?今から他の人を探すのは厳しいわよ」
確かに霞の言うことももっともである。
第一、他に思い当たる人物がいないのである。
「…仕方ないですね」
朧がポツリと呟く。
「7人目は彼方さんにしましょう」
その言葉に残りの者達もコクリと頷いた。
「よろしくお願いしますね、彼方さん」
「はッ!不肖、田中彼方、ヒトナナマルマルより任務に就きます!」
再度、敬礼をする彼方。
それを見て疾風は、ハハハ…と力無く笑った。