刃に心《第22話・人は何故、争うのか?》-4
「そいで、疾風が暇だろと思ったから誘いに来たって訳さ!」
彼方はさらに紙を疾風に突き付ける。
「彼方、ちょっと待ってろ」
彼方をその場に残し、6人は少し離れた所で円陣を組むように顔を近付けた。
「…どうします?」
「…あの人、一般人ッスよね?アレ読まれて大丈夫なんッスか?」
「…深い所までは知らないみたいですけど…どうしましょうね?」
「……危険………追い返すべき…」
「…だが、あやつはこうなるとなかなか引き下がらぬぞ」
「…でも、人数が後一人なのも事実なんだよな」
千夜子はちらりと彼方を見た。手持ちぶさたになったのか、再び携帯を弄っている。
「あれ?みんなして何してんの?」
6人は顔を上げた。
霞が両手にコンビニの袋を提げて立っている。
「そうだ。疾風、霞に頼んでみてはどうだ?」
楓が如何にも名案だという顔で言った。
「私なら兄貴と一緒に出る気はないから」
しかし、霞はにっこりと笑い、あっさりと申し出を拒否する。
「それより何してんの?」
「実はですね…」
◇◆◇◆◇◆◇
「へぇ。なら、私にいい考えがあるわよ」
朧から事の次第を聞いた霞はにやりと笑うと、一行プラス彼方を家の中へと招き入れた。
「彼方先輩、ちょっとこちらへ♪皆さんは少々お待ちを♪」
6人をリビングで待たせると、霞は彼方を別室へと連れ出そうとする。
「え、何々?」
「彼方先輩、私がいいことしてあげますよ♪」
よく話が見えないといった表情の彼方に霞が艶やかに微笑みかける。
「え、それって、もしかして…」
「ふふ♪」
霞は意味深に笑った。すると彼方は途端に、にやけ顔で納得する。
「いやぁ、モテる男は辛いねぇ♪」
疾風は思った。
何、人の妹で妄想してんだ、こいつは。
「悪い!そういうことだから♪俺も一人の男だから♪ホント、悪いな、疾風!いや、義兄さんと呼ぶべきか」
ああ、ホントに馬鹿だな。
その場にいた者全てが、彼方の痛々しい妄想っぷりを見て思ったことだった。
その数分後。
「できたわよ」
霞が『いい仕事したなぁ』といった表情で別室から出てくる。ご丁寧にも溜まってもいない額の汗を拭う仕草付き。
「さあ、生まれ変わった彼方先輩、どうぞ♪」
霞の後ろから彼方が現れる。
そして、部屋に入るなり、踵を揃え、ピシッと額に手刀の形にした右手を当てる。
「本日付けでこの小隊に配属になりました田中彼方であります!」
時が止まったかのように、静かになった。皆、ポカンとした表情をしている。