刃に心《第22話・人は何故、争うのか?》-11
「うー、あー、えっと…助かったよ。流石、楓だよな」
「───ッ!」
そう褒められて楓は一瞬嬉しそうに頬を緩ませかけるが、朧の思惑通りになっていると気付き、慌ててそっぽを向く。
「…うっ」
小さな呻き声がした。
「…まだじゃあぁああ!」
それが最後の気力を振り絞ったリーダーの声だと判るのにそう時間は掛からなかった。
疾風がそれまでの困惑の表情を変え、銃口を向けた。
ターンッ!
男が再度突っ伏し、力尽きる。
疾風は銃弾が飛んできた方向を向いた。
僅かに開いた窓の隙間。その先の渡り廊下からロングバレルを向けている刃梛枷が見えた。
もし、刃梛枷の言葉が届くとしたら、あの小さく抑揚の無い声で、「……油断大敵…」と言ったかもしれない。
疾風は微笑みながら、ありがとう、と片手を挙げた。
それをライフルに備え付けられていたスコープから見ていた刃梛枷の顔に微かに朱が射す。
刃梛枷は無言のまま疾風の胸に照準を合わせた。
「……バン…」
引き金は引かず、手で銃身を揺らす。
この銃であの心を撃ち落とせるならどんなに楽だろう。
しかし、実際にはかなり難度の高いミッションだ。幾ら撃とうと、なかなか獲物には当たらない。
「……でも…」
───諦めない。
囁くような声で呟くと、その身を静かに闇へと溶かしていった。
◇◆◇◆◇◆◇
「危なかったな…」
突っ伏した男を見下ろして、疾風が言った。
「小鳥遊の一撃が甘かったんだろう」
「私は確かに斬りました。大方、千夜子殿には速すぎて見えなかったのでしょう」
「テメェ…」
剣呑な視線をぶつけ合い、威嚇する二人。
「まあまあ…」
「喧嘩は止すッスよ〜。此処は薬品関係に強いおぼ姉に聞いたらどうッスか?」
眞燈瑠はそう促して、朧の顔を見上げた。
「そうですねぇ…はっきりとは申し上げられませんが、個人差があるのかもしれません」
完全に動かなくなかった男を見て、朧は言った。
冷たさを伴った夜気が腕に結ばれた紅の印を靡かせる。
「…どうであれ、注意は必要です。では、そろそろ移動しましょう」
疾風は無言でサブマシンガンを持つ手に力を込めた。