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Identity
【SF その他小説】

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Identity 『一ヶ月前 PM9:48』-1

 PM9:48
 
 ……薬の量が増えてる。
 頭の中につながれたコードの量も。
 ……脳が持ち出されてからどのぐらいの月日が経ったのだろう。
 一ヶ月? 三年? それとも……十年か……それ以上……。
 それでもまだ、生きていた。
 ……生きていると言えるかどうか、それは怪しいが。
「そろそろ、限界だな」
 声が聞こえる。
「……しかし、成功体はこれ一匹しか……」
 ……喉が渇いた。腹が減った。
「確かに、十五年、生き続けた奴はこれしかないが……」
「……一度、拘束を解いてみるか?」
 …………!!???
「そんな!! そんなことをすれば我々全員の命が危険……」
「……ろしてやる」
 はっきりと声には出せなかったけど、その場に居る連中には意味が通じたみたいだ。
「ぼ…を…か、…いほうしたら……まっ…きに」
 次の言葉は割とはっきりと発音できたと思う。なんせ、喉にもチューブが入ってて本当なら声なんて出せる状態じゃなかった。
「あいつを殺してやる!」
 その場に居る連中が凍りつくのを僕は面白く眺めていた。
 ……ある種の余裕があったのかもしれない。自分にはこの場に居る全員を一瞬で皆殺しにできる力があったから。
 鏡を見ることはできないけれど、きっと今の僕には笑みが浮かんでいるだろう。
「……やはり、そうだな……。こいつの解放を許そう」
「局長! しかし……」
「聞こえるか?」
 ……僕に言っている?
「今から君を解放する。君は自由だ」
 ……自由? よく言うよ。
 どうせこの屋敷からは出れないくせに。
「確かに、この屋敷からの外出許可は出すことができない。私にはその権限がないんでね」
「所長! 許可なしに……いいんですか?」
「かまわん。どうせこいつの思考力、運動能力などはいずれ検査せねばならん。柊には私のほうから報告する」
 柊…ひいらぎ……ヒイラギ!!
「それにもうすぐ……の時期だ」
「! ……なるほど、それでは」
「ああ、…………」
 その後の会話は聞いていない。
 ただ、あいつの名前だけが頭に残っていた。


 自由? 
 よく言うよ。
 どうせこの屋敷から出れないくせに。
 
 それでも、僕はまだ生きていた。

 だから、ボクは、ジユウをえらんだ。


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