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琴線
【大人 恋愛小説】

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琴線-6

[えーと、川畑美香さん…総務で、私の3年後輩。こっちは藤野一巳さん。事業部の施設管理課]

森のたどたどしい紹介で、彼女との"お見合い"が焼き鳥屋で始まった。

一巳は考えていた。"紹介された彼女は森の3歳下という事は30歳か。"それにしてはもっと幼く見えた。

[よろしく]

一巳は席を立つと、右手を差し出した。美香はその仕草に驚きもしながら同様に立つと彼の手を握った。

これは一巳流"人を見る術"である。相手が予期せぬ態度を取った場合のリアクションで、どんな性格かを把握するものだが、焼き鳥屋のように大勢の見知らぬ人が居る場所で、突然、相手が立ち上がって右手を差し出したのだ。普通ならポカンとするか座ったまま握手をするかだが、彼女は一巳同様に立って握手してきた。それも、周りを気にせずに。

これだけで一巳の気持ちは決まった。

お互いを意識しながら焼き鳥とビールを飲み食いし、ほろ酔いになってきたところでタイミングを図って一巳は美香に訊いた。

[森さんから何て言われたの?]

美香は視線を一巳に合わせて答える。

[…藤野さんが1番まともだって…]

[オレには"ベスト"って言ってたよ。ベリィでもオンリーでも無くて…]

[そういう意味で言ったんじゃないわ!]

森は慌てて自分の発言をフォローする。

美香がさらにフォローを入れる。

[先輩って時々言葉が足りないんですよ。私にも"会わせたい人が居るから"って…]

[オレと同じだ。君の事も"会わせたい娘が居るから"だけだった]

[だって、それは……]

いつも冷静な態度を取る森が明らかに焦っている。それを見て一巳と美香は声を立てて笑い出した。時が経ち、アルコールがまわるにつれ、二人は"美香さん"、"一巳さん"とお互いを名前で呼びあっていた……



一巳は腕時計を見る。夜の9時……帰るには、まだちょっと早い時刻だ。

一巳は美香を誘った。

[美香さん、もう一軒行かないか?]

彼女は"ンーッ"と右手人差し指を唇にあてて上目でしばし考えてから、

[12時までに帰してくれる?]

[まるでシンデレラだな。分かったよ、呑み直そう]

そう言ってから森を見て、"森さんも行くかい?"と訊くと、彼女は"呑み過ぎたからアナタ達で行って"と帰ろうとする。


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