エンゲイジ・リングを君に-7
そして、それは今も変わらない───。
「どうした?黙りこくって」
無言でフロントガラスの下の方を見つめるゆきなに、運転席の真之が尋ねた。
ゆきなはハッと我に返るが、ボーッとしていたことに気付かれないよう、憎まれ口で誤魔化した。
「別に。あんたと喋ることなんかないもの」
「キツイなぁ」
クスクスクス。また笑う。
だけど、目は笑っていない。むしろ、何かを射抜くような鋭さを湛えている。
この顔だ、とゆきなは思った。
高校の入学式、廊下で会ったとき、真之はこの表情を浮かべていた。
鋭い瞳と笑った口許。
恐怖が背筋を走ると同時に、ゆきなの中で違う気持ちが芽生えた。
───この不思議な人間を、もっと知りたい。
興味が恋に変わるのに、そう時間はかからなかった。
相変わらず、両家の食事会は頻繁にあったし、時には真之がゆきなを食事に誘うこともあった。ゆきなの方の口数が増えれば、自然と真之の口数も増える。会話が増えて距離が縮まれば喧嘩にもなるのだが。
ゆきなが高校に入学して半年ほどで、二人の会話は今現在のようになった。
面白がるような真之の言葉に、ゆきながつんけんした言葉を返す。
喧嘩ばかりのように見えたが、決して仲が悪いわけではない。だけれど、決して愛し合えているわけでもないと、ゆきなは知っていた。
「着いたぞ」
窓の外を流れる繁華街のネオンが止まって、エンジンを止めた真之が言った。
「ここ……?」
そこは24時間営業のファミレスだった。
「何でこんなとこ……」
百合子などの高校の友達同士でならよく来るが、真之と来るのは初めてだ。
いつもなら、高級な、とまではいかないが、お洒落な店などに入るのに、今日はどうしたことだろう。
「待ち合わせしてるんだ」
「待ち合わせ?」
真之が詳しく話さず中へ入って行くので、ゆきなも慌てて後を追った。
午後7時半過ぎとあって、店内は混みあっていた。
ゆきなと同い年くらいの高校生、パソコンをいじるサラリーマン、ドリンクバーで暇を潰す若者……。
いろんな人々で賑わう店内で、真之は目的の人物を見付けたらしく軽く手を上げた。
誰だろう?
覗きこんだゆきなは「あ……」と声を上げる。
窓際の隅の禁煙席、4人がけのテーブルにいたのは、伊藤千晴だった。