エンゲイジ・リングを君に-2
「そっか」
泣き出しそうにも見える笑顔で言われ、ゆきなのほうが申し訳なささで泣き出しそうだった。
「こっちこそいきなりごめんな。じゃ……」
泣き出しそうなゆきなに気付いたのか、千晴は自分の方に非があるように言って、去っていった。
その背中に、ゆきなは胸の中で更なる謝罪の言葉を呟いた。
ごめんね……。
「で、伊藤をふったことに罪悪感でいっぱいだ、と?」
帰り道に立ち寄った喫茶店でチョコレートパフェを口に運びながら、津野田百合子は半ば呆れながら言った。
「そゆこと」
テーブルを挟んだ百合子の向かい、アイスコーヒーのグラスを揺らしながら、ゆきなが答える。
千晴と別れた後、ゆきなは酷く落ち込んだ様子で百合子の待つ教室に戻った。
理由はあったとはいえ、それを隠して千晴をふったことに、彼女はかなりの罪悪感を感じていた。
そんなゆきなの様子を見た百合子が、心配半分興味半分で彼女を喫茶店へ誘ったのだ。そして、腹ごしらえをしつつ、ことの次第を聞き出して今に至る。
「そぉんなに気にすることないんじゃん?」
グラスの底のシリアルをスプーンでサクサク潰しながら、さも他人事のように百合子が言った。
「伊藤のことだから激しく落ち込みそうな気はするけどさ、あんたまで気にすることないっしょ?」
「でも……」
ふやけたシリアルと反対にサックリと言う百合子に、ゆきなは言葉を濁す。
「理由も言わずに、なんて、失礼じゃなかったかなぁ」
そこがゆきなが気にしている最大の理由だった。
「あんたねぇ、男ふる度にいちいち詳しい理由なんか言うわけないでしょ?それに、あんたの場合、理由言えるわけないでしょ?『好きな人がいる』なんて中途半端なこと言ってみなさい?どんな噂が広がるか分かったもんじゃない」
「う……」
確かに、言えない。言えないから言わなかったのだ。
「でも……」
「あーもう、この話やめぇ」
尚も食い下がるゆきなに、百合子はイライラと言った。
空のグラスにスプーンを入れ、伝票を手に立ち上がる。
「ほら、ここ奢ったげるから、帰るよ」
「う、うん」
言いながらレジへ向かう百合子をゆきなも慌てて追った。
「日田と話すときみたいにさ、もうちょっと強気でいったら?」
店を出る間際、苦笑しながら百合子が言った言葉が、ゆきなの頭にひっかかった。