エンゲイジ・リングを君に-18
『お前、笑ってんの?』
「違う、泣いてる」
嘘ではない。
泣いている。だけど、笑っている。
「泣いてるけど、笑ってるの」
『はぁ?』
疑問を含んだ声。
きっと今、彼は眉間に皺を寄せている。
また笑いがこみ上げた。
『何がおかしいよ?』
「真之が」
『はぁ?』
こういう風に、ゆきなの方が真之をからかうのは初めてだった。
からかうのはいつも真之の方。
いつも真之の方が上手。
『で、用件は?』
泣き笑いを続けるゆきなに、真之が尋ねる。
声はいつも通りの声に戻っていた。
だから、このとき真之が酷く情けない顔をしていたことに、ゆきなは気付かない。
胸の中を少しだけ不安がよぎる。
言えるだろうか?
『会いたい』
「え?」
先に言ったのは真之の方。
ゆきなは頬が紅潮するのを感じた。
『後で迎えに行くから、夕飯食いに行こう』
デートのお誘い。
「あ、会わないんじゃなかったの?」
つい可愛くないことを言ってしまった。
だけど、返って来たのは優しい口調。
『会いたくなった、じゃダメか?』
「ダっ……」
今なら言える。
「ダメじゃない!」
それから、あたしも会いたい、と、付け加える。
電話の向こうで、真之が笑うのが分かった。