エンゲイジ・リングを君に-17
真之は頷いて席を立ち、まるで本当に千晴の手で背を押されているような気持ちで、出口に向かった。
ゆきなは今どこにいるだろう。
電話をかけてみようか?出てくれるだろうか?
汗ばんだ右手で携帯を握り直す。
痺れる感覚とともにバイブが鳴り出したのは、ちょうどその時だった。
ゆきなは自宅で携帯を耳に当て、落ち着かない表情を浮かべていた。
母の伝言によると、今日も真之は電話をすると言っていたと言う。
携帯は朝から一度も鳴らない。
百合子の家に行っている間、家の電話にも真之からの電話はなかったと聞いている。
話したいことがあるのに。
とうとう待ちきれなくて、自分から電話をかけたのだった。
出てくれるかな?
不安で体が震える。
ダイアル音。続いて呼び出し音。
1コール……2コー……
『もしもし?』
聞きたかった声。
低い、ハスキーボイス。
意地悪で、優しい、不思議な人の。
愛しい人の。
『もしもし?』
応える前に涙があふれてきてしまったゆきなは、応えることができない。
電話の向こうから、心配を帯びた声が聞こえる。
真之でも心配なんてできたんだ。
泣きながらも笑えてきた。
嬉しさで。
『ゆきな?どうした?』
今度は少し慌てた声。
笑いがこみ上げてくる。
「……ふっ……」
『ゆき?』
思わずもらした声に、真之が不思議そうに名前を呼ぶ。