エンゲイジ・リングを君に-13
「で?いつまで泣いてる気?」
次の日、ゆきなは百合子の部屋にいた。
「う……ひぐっ、だってぇ」
彼女が家に来て2時間半、泣き出して1時間半。百合子のイライラは呆れに変わってきていた。
「まぁね、あの男も酷いっちゃ酷いわよ。でも、じゃあ何でその場で泣いちゃわないのよ」
「だってぇ……」
あの男、とは、もちろん真之のことである。
話題は昨夜のファミレスでの一件。
その場で泣き出せば、いくら真之でも反省の一つくらいしただろう。まぁ、逃げてきて電話にも出ないんじゃあ、今ごろ反省を通り越して後悔の域かもしれないが。
それにしたって、よく泣く。
「……ぐす、伊藤くん連れてきて、協力するってのよ。酷すぎるよ」
言ってからまた、うぇーんと泣き出す。
「はいはい、それはさっき聞いた」
このくらい泣けば、日田も可愛いげを感じるんじゃないだろうか。泣きはらした目で鼻水をすするゆきなを見て、百合子はそう思わずにはいられない。
この友人はいつもそうだ。
真之には強気に振る舞うくせに、その実、言葉裏腹に不安ばかり抱えている。デートの次の日は必ず百合子の家に来て、泣き言を漏らすのだ。
「ほらほら、いい加減泣きやんでよ」
黒目がちの瞳を濡らして鼻を真っ赤にするゆきなに、彼女はまるで姉のように言った。
そして、ゆきなが泣いている間、考えていたことを口にする。
「ねぇ、日田はさ、あんたを解放したかったんじゃないの?」
突然の言葉に、ゆきなが顔を上げた。真っ赤に腫らした目で、百合子を見る。
「日田は自分に囚われてるあんたを見てらんなかったんだよ。」
意味が分からず、ゆきなは首をかしげる。
「つまりぃ、あの男は、あんたが好きなことを知ってた。でしょ?」
問われてゆきなは頷く。
たぶん、知っていた。
「だけど、婚約は解消になったから、あんたは日田から離れていった。でも……」
「ちょっと待って!」
百合子の言葉をゆきなは遮った。
「離れたのはあたしじゃないよ。真之の方が会わないって言ったんだから」
声はだんだん小さくなって、最後は聞き取れないくらいの涙声になっていた。
百合子は心配そうに覗きこむ。しかし、彼女に容赦はない。