エンゲイジ・リングを君に-10
やけに大きなダイアル音が終わり、呼び出し音に繋がる。はずだったのだが……。
『おかけになった電話は、現在電波の届かないところにあるか、電源が切られて……』
みなまで聞かず、真之は電話を切った。
感情のこもらない機械的な声が耳に残っている。
「お前のも充電切れかよぉ……」
ベッドに仰向けに転がって呟いてみるが、頭では違うだろうと理解していた。
今日中に真之が電話をしてくることは、ゆきなだって予想がついていたはず。彼と話したくないが為に、電源を切っていたに違いなかった。
ならば───。
真之は再び携帯電話を手にとった。
メモリからゆきなの自宅電話の番号を呼び出す。
呼び出し音2コール目、電話に出たのはゆきなの母親だった。
「夜分すみません。ゆきなさんはいらっしゃいますか?」
いるのは分かっている。だけど、出てくれるかは分からない。
「ちょっと待ってくださいね。呼んできますから」
いつもより少し声のトーンが低い。彼女は事情を知っているのかもしれない。
穏やかな保留音がワンコーラス終わり、同じ曲が再び流れ出す。せいぜい3分かそこらの時間が、永遠のようにも感じられた。
保留音が鳴りやみ、電話の向こうから小さな雑音が聞こえた。ゆきなか、と真之の心を期待がよぎる。
しかし。
「ごめんなさいね、真之さん。ゆきな、気分が悪いんですって。明日にでも掛け直させますから」
期待は裏切られ、電話口からは申し訳なさそうなゆきなの母親の声が入ってきた。
───出たくない、か。
「いえ、また明日、僕から掛けます。失礼しました。おやすみなさい」
何とか平常心で声を出したが、心は押し潰されそうだった。
電話を切って、再びベッドに倒れこむ。見上げた天井が白く滲んで見えるのは、乱視のせいか、涙のせいか。
傷付けるつもりがあったわけじゃなかった。だけれど、傷付かないと思っていたわけでもなかった。
一月前までは、こんなことなかったのに。
一月前、ゆきなが婚約指輪を返しに来るまでは……。