ツバメD-4
『燕、あのね』
「なに?」
『その…』
料理をしている燕の背中に向かって続ける。
『ごめん。この間』
「この間?」
『はい、合鍵』
「……」
燕はきょとんとした顔で鍵を見つめる。
『なによ』
「……なんで鍵?」
『は?合鍵のことで怒ったんでしょ?』
「………」
燕は頭を抱えている。
「あー!あの日か!」
『……』
あれ?なんか変な雰囲気。
「……」
『まさか』
「?」
『あんた、合鍵のことで怒ったんじゃないの?』
「違うよー!そんなことで怒るわけないじゃん」
『じゃあ…まさか…』
「モップで殴ったからだよ」
殺す。殺してやる。
この男に“嫉妬”の二文字はないことをあたこの時知った。
『燕』
「?」
『死ねぇぇぇ!!!』
「は?え?ぎゃああああ!」
『おはよ、千川くん』
「おはよう、綾瀬さん」
翌日、千川くんが見せた久し振りの笑顔は、悲しい失恋なんて吹き飛ばす爽やかなものだった。
彼が失恋したように、あたしも同時に失恋したある日のことだった。