今年の桜-2
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『出て行ってくれ』
言った瞬間には、もう後悔していたんだ
だからお前の顔は見なかった
きっとお前は泣いていたんだろう
『俺には才能が無いんだ、三年かかってこのザマだ。もう潮時なんだよ、お前もこんな男につかまって災難だったな』
『そんなことない、アタシは信じてるよ。才能が無いだなんて、どうして諦めちゃうの。ずっと側にいるよ』
わかってんだよ
俺みたいな馬鹿な男の夢に付き合ってくれるのは、お前だけだって
だから約束なんて出来なかった
好きな女に苦労させるのが分かってるのに
小さな指輪さえも買ってやれない情けない男なんだよ、俺は
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猫は、屈み込んだ俺の膝に飛び乗ると、あいつと同じ黒い瞳で俺を見上げて喉を鳴らす
その温もりと重みが俺を泣かせた
ああ
最初から手放すことなんて出来ないとわかっていたのに
どこまでも馬鹿な男だな、俺は
『明日あいつを迎えに行こうか』
小さくそう呟くと、猫がニャーと大きく声をあげた
桜が散る前にあいつに言おう
来年も再来年も桜を一緒に見たいのは、お前だけなのだと
今年の桜が散る前に……
- END -