つかの間の愛情ー後編ー-3
[久しぶりにデートでもするか?]
それは、勉強を教えてる最中に一巳が言い出した。
[いつ!]
喜びながら訊く恵子。
[そうだな……]
ふと窓の外を眺める一巳、外は雪がチラチラと舞っていた。
[さ来週、クリスマス・イヴに!オレ、翌日から郵便のバイトと掛け持ちになるから。その日しか空いてないんだ]
[分かった!何処に行くの?]
[それまでに考えとくよ。オマエも高校受験だろ!息抜きはその日と元旦だけだ。後は自分で頑張れ!]
恵子はムクレた顔をして、不満をぶつける。
[エ〜ッ!受験まで面倒見てくれないの!]
一巳はゆっくりと首を振って、
[オマエはもう大丈夫さ。自分でやれる。自信を持っていい。オレが見るのはイヴまでだ]
それから二週間後、クリスマス・イヴの日、二人は1日中全てを忘れて楽しく過ごし、そして愛し合った。
その翌日から冬休みの間中、一巳はバイトに精を出していた。恵子からの電話は無かった……
一巳は高校の受験が終わる三月まで、恵子とは連絡もしない方が良いだろうと思い、彼女の事をかき消すようにバイトやバイクに気持ちを向けた……
[アイツ…高校ダメだった]
三月も半ばを過ぎた頃、青木から電話があった。聞けばテストの成績は良かったらしいが、内申書の審査で落とされたらしい。昔の彼女の素行が響いたのだ。
一巳は怒りに満ちた口調で青木にぶつけた。
[せっかく立ち直ったのに…なんで…]
[アイツ、すごい落ち込んでてさ…]
[分かった。今から行くよ]
一巳はバイクを飛ばして恵子に会いに行った。部屋に行くと、恵子は明るく出迎えてくれた。しかし、青木の話が頭をよぎる。彼女が一巳に悲しい顔は見せまいと、から元気を振る舞えば振る舞うほど、そんな恵子を一巳はいとおしく思えた。
[もう、いいよ]
そう言って一巳は恵子を優しく抱擁した。
[良く…頑張ったな…]
その途端、恵子は堰を切ったように声を上げて泣き出した。一巳はそんな彼女の頭を撫でてやる事しか出来なかった……
一巳は高校3年になった。彼もしばらくは学校にバイトに忙しく、恵子に会うヒマがなかった。久しぶりに彼女と会ったのはゴールデン・ウィーク真っ只中の5月3日だった。その日は5月にしては肌寒く、一巳はジャケットを羽尾って会いに行った。
青木の部屋に行くと、数人の懐かしい顔があった。その隅に隠れるように恵子は座っていた。一巳はしばらく彼らと談笑していたが、
[オレさ、バイク買ったんだ!XJ-R400だぜ!]
青木が自慢気そう言うと、仲間が"見せてくれ"と言って表に出ていった。部屋に残ったのは一巳と恵子だけだった。