つかの間の愛情ー後編ー-2
[アイツとオレは兄妹じゃないんだ。オレは母親、アイツは父親の連れ子なんだ。アイツが2歳の頃の事だ。アイツはそれを小6の時に知ってから学校にも行かなくなった。自分の殻に閉じ籠ってな……だけど、オマエと会ってからアイツは変わった。オマエの事をオレに話す時、実に楽しそうなんだ…どうか、頼む。]
全てを聞かされて、一巳は何も言えなくなった。いい加減な性格と思っていた青木だが、こと妹の事になると、そこまで思っていたとは…人にはそれぞれ秘密にしときたい事情もあるのだ。
一巳は目の前の青木にそう感じながら、答えた。
[青木、今の話は聞かなかった事にするよ。哀れに思って付き合ったらそれこそ彼女が可哀想すぎる…心配するな!大事に思ってるよ]
青木は、ほっとした様子で"じゃあまたな"と言って一巳の家を後にした。だが、一巳は別の事を考えていた……
[オマエ、学校行ってるのか?]
恵子は中学3年生になった。が、相変わらず学校に行かずに自宅に引きこもっていた。
恵子は一巳と視線を合わせずに答える。
[たまに……行く]
[じゃあ毎日行け!卒業しろ]
[だって…行きたくない]
一巳は強い態度で恵子に挑んだ。
[だったら、オレ達もこれまでだ!オレの女がまともに学校にも行っていないのに、どうにも出来ないなんて男じゃない]
その言葉に恵子はマジマジと一巳を見つめると、
[アタシの事、認めてくれるの?]
一変、一巳は柔和な顔で恵子を見ると、
[…ああ…だから頑張れ。頑張って卒業しろ。そして高校に行くんだ]
[でも…勉強が…]
[心配するな!オレが教えてやる。こう見えても現役の公立高校生だぞ。中学生の勉強位わけないさ!]
と言って笑顔で応える一巳。恵子はうつ向いている。一巳は真剣な顔になり、
[今日から毎日ここに来て勉強するからな。教科書持ってこい]
その日から一巳の家庭教師が始まった。
それから半年。恵子は学校に通うようになった。最初の頃は3日に1度の割合で休んでいたが、一巳の励ましもあり徐々に休みの間隔が開きだし、今では全く休まなくなった。
勉強の方も最初は解らないようだったが、元々勉強は好きだったようで呑み込みが早く、今では十分クラスの皆についていける程だった。
逆に一巳の方が困っていた。最初は"たかが中学生の勉強"と思っていたが始めてみると、自分が解らず昔の参考書を引っ張り出して調べる始末だった。
そして、何より彼女にも理解者が出来たのだ!勉強を教えてる最中、友達とのエピソードを細かいディテールに渡り一巳は聞かされた。身振り手振りを混じえて一生懸命に話す恵子を見て、一巳は胸いっぱいになった。改めて彼女を学校に行かせて良かったと感じたのだった。