想いはあの日から-1
「さーくーら、さーくーら」
4月の暖かい空気が包む。お決まりの歌を歌いながら、桜並木が続く道をいつもより少し遅いペースで歩いていく。
空は快晴。新しい門出にふさわしい天気だ。
並木を抜け、少し歩いた先に一本の桜の木がある。
「どう?新しい制服似合うだろう」
スカートの裾を両手でつまんで桜の前でくるりと回ってみる。
「今日から高校生だよ」
ここには初恋の人が眠っている。
二年前、同じ制服を着ているはずだった彼はこの桜が咲く前にいなくなってしまった。
「やっぱりここに来たか」
影がかかる。
「代わりに制服着れたから見せてあげにきたの」
隣に並ぶと桜を見上げる。
暫く見ない間に背が伸びている。
やっぱり兄弟だ。
雰囲気も似てきたな。
いつの間にか彼の歳を越してしまった。
あの時は悲しい日々の毎日で一日が長く感じていた筈なのに。
そしてできれば、今横に立っている人と再会したくなかった。
あの日から二年間連絡をとらなくなって、やっと気持ちの整理がついたところなのに。
このままだとまた……
背中に気配を感じると同時に肩に重みが来て、抱き締められていることに気付く。
「逢いたかった」
甘えてしまう。
ずるい人間になる。