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タナトス
【ホラー その他小説】

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タナトス-1

序幕・

昔から後悔するのが大嫌いだった。後悔しないためならどんな努力も惜しまなかった、何て言うと一見素晴らしいことの様に感じるが、それは裏を返せばどんな事でもするということ。 目的の為には手段を選ばず−譬えその結果誰かが犠牲になろうと−ただ後悔したくが無い為だけに努力を重ねる。
そんな生き方をして来た人間がまともになる筈もなく。
結局、
だからこそ、あんな事になってしまったのだろう。 今でも身体中に焼き付いて離れない。
悲鳴。
血。
恐怖感。
そして−彼女のこと。
網膜に、脳髄に、細胞の奥まで染み付いて、いつもぼくを苛ませる。
たった一つの過ちでパンドラの箱を開けてしまった。
でも、それは対岸の出来事の様で、自分のことなのにどこか客観的に感じていた。
だからこそぼくにとっては、
全部、夢。
この世には信頼なんて存在しない。全てが嘘で偽善で、真実なんて都合のいい妄想だ。希望は所詮、絶望えの起爆剤でしかない。
でも夢だからこそ、悪い夢だからこそ、醒めて欲しくなかった。
進むのも退くのも億劫で停滞するしかなくなって、何もかも嫌になったなら、放棄するよりも埋もれてしまえばいい。誰にも構わず何にも触れず、過去の鎖にがんじがらめにされてしまえば、例えどんな感情だろうと最後は無へと帰す。
気持ち良くて心地良くて、どれも同じこと。
でもぼくは、愚かにも他の道わ選んでしまった。もがけばもがく程深みに嵌まっていく底無し沼。
そんなぼくは無様でしたか?
結局。
始まりの終わりは所詮終わりの始まりでしかなかった。そんなのどうせ、始まる頃にはおわっていて、終わる頃には破綻している。 そう言えば、彼女はどうだったんだろう。
ぼく如きに判る筈もないだろうが、それでもその一片くらいは見えた気がする。
それはきっと。
無欲過ぎて 貪欲な
純粋過ぎて 汚濁な
優秀過ぎて 無能な
崇高過ぎて 下劣な

ぼく達人間。

自分は世界の一部品。
世界は自分の一部品。
どこまでも似ていて、そしてどこまでも似ていない。そんな絶対的な矛盾を抱え込んで、物語は進んで行く。
あそこに終焉なんてなかった。崩壊こそが終わるとき、終わるのは崩壊したとき。
そして。
全てが狂った空気の中で 一個世界が消え去った。 そこにはなんにもノコラナイ。


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