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秘密
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秘密〜菖の恋〜-4

3
『ごきげんよう』
『ごきげんよう』

 今日も桜蘭学院中等部女子棟は天使達の声で始まる。

「菖さん、ごきげんよう」
背後から柔らかい声がした。
「ごきげんよう、美狭子(ミサコ)さん」
ゆっくりと振り返って、挨拶をする。急に話しかけられても、驚きを見せず、対処する。幼等部から教えられてきた基本動作だ。
 彼女は、桐榮 美狭子(キリサカミサコ)。幼等部からの友達。親友、なのかもしれない。
 菖の真っ直ぐな日本人形のような黒い髪に対し、美狭子は茶色味が強い、ふわふわとした柔らか目の髪だ。
普段は腰まで有る髪を、後ろで一つに結んでいるはずなのだが、今日はそのまま、後ろへ無造作に流している。風が吹く度、ふわふわと浮き、きらきらと輝く。
「美狭子さん、何かあったの?」
彼女がそうするときは、何かがあった時だ。長年の付き合いだから、分かる。
「あら、菖さん。ご存じなくて?」
「何ですの?」
「内緒ですわよ?」
うふふと笑い、耳に口を近付けてきた。
「佐々木先生の代わりの方、とても素敵な方らしいわ。確かー・・・楸先生とか。高等部の方を教えていらしたそうで」

どくっと心臓がなったのが分かる。
「まぁ、そうですの・・・」
少し声がかすれてしまった。
「それだけじゃ有りませんのよ」
と更に話を続ける。
「まだ、お若いのですって。あ、勿論男性ですわよ。都内の有名な音楽学校をトップで卒業なさったみたい。何でも、ピアノが物凄く上手であられるとか。凄いですわねぇ」
「・・本当に」
 凄いと思った。そこまで凄い人だったとは・・・。

「何のお話ですの?」
後ろから、シスターが尋ねてきた。
「いえ、何でも有りませんの。シスター嘉島(カシマ)」
ふわっと美狭子さんが笑ってごまかした。
「そう?それなら、早く教室へお入りなさい。もうすぐ鐘が鳴りますよ」
微笑みながら、シスターが去っていくのを見守る。
ふふっと、隣で美狭子さんが笑った。
「行きましょう?遅れてしまっては大変ですわ。どうせ音楽は、六限目にありますもの」


「何かありましたの?」
昼、お弁当を食べている時にクラスメートに尋ねられた。
「え?」
「だって、今朝遅れて来たでしょう?妃さんと桐榮さんが遅れてくるなんて珍しいもの」
ーあぁ、なるほど。
「いいえ。別に対したことではありませんわ。ねえ、菖さん?」
美狭子さんが答え、相槌を打ってきた。今朝の話は、するなということだろう。
「えぇ。そんな、気にすることもないですわ」
二人に否定され、流石に彼女達もそれ以上は追求出来ないようだ。
「そういえば、」
菜々子さんが唐突に話し出した。
「音楽、代わりの方が来られるとか。どんな方かご存じ?」
知らないわ。あなたは?と口々に言い合う。そんな風景が面白かったのか、美狭子さんは笑いをこらえていた。
-4-


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