台湾沖の現実-1
「陸海軍航空部隊は、台湾南東海上において米機動部隊と交戦。撃沈せしもの、空母4、戦艦1…」
ラジオの大本営発表は、高らかな軍艦行進曲とともに日本の勝利を伝えていた。飛行場を見ると、その大戦果をあげた飛行機が見えた。
数時間前、ここを飛び立った20機余りの飛行機は、今はたった3機しかいない。大戦果をあげた男達も、誰も帰っては来なかった。
有り得なかった。
ベテランが数百機で攻撃しても1隻沈めるのがやっとなのに、T部隊を除けばヒヨッ子だらけの攻撃隊が、空母を沈めれる訳がなかった。
俺の教え子達も、全員未帰還だった。かつての偉人が言ったように、人間は『見たいと思う現実しか見ようとしない』生き物だった。
「搭乗員整列」
そして、また偽りの現実しか見ない人間によって、人が死んで行くのだ。
俺は、ラジオを消し、再び機上の人となった。
完