ツバメC-1
あれから数日、相変わらず雑務を黙々とこなす毎日ではあるのだけど、少し変化があるわけで。
あのときの福岡くんとの会話を目撃した仲間が、最近ぎゃーぎゃー騒いでいます。
福岡さんとデキてたんだねーとか、どうやって知り合ったのーとか。
まあ悪気ないみたいだし、単純にうらやましいだけみたい。
第四話
男の嫉妬(前編)
「綾瀬さん、人気だね」
『そんなことないよ』
「あ、それとこのコピー、五枚お願いしてもいいかな」
『はーい』
彼は同じ部署で同期の千川創(せんかわはじめ)。
色白で背はあまり高くなく、おとなしい雰囲気の男の子。
新人歓迎会で隣に座って以来、男性社員では一番仲が良い。
小走りでコピーした書類を千川くんに持って行く。
「ありがとう。走らなくてもいいのに」
そう言うと、千川くんはニコッと微笑んだ。
『あはは』
実はあたし、彼のこの笑顔に癒されてます。
愛くるしくて、なんかほんわかした雰囲気。
それに、なんとなく燕に似てる気がする。
『…はっ』
「どうしたの?」
『あ、んーん、何でも』
つい、また“あのバカ”が頭の中に出てきた。
たしかに子どもっぽいところとか似てるけど、“あのバカ”は悪意に満ちてるから。
「あのさ」
『へっ?』
また自分の世界に入ってた。
「今日の夜とか…時間ある?」
『え?あ、うん』
「じゃあさ、仕事終わったら飲みにいかない?」
おおっと、急展開。
デート?に誘われちゃった。
『うん!』
明るく返した。
「よかったー…断られるかと思った」
『そんな!断らないよ!』
「うぉっほぉん!」
課長がこちらを見て咳払いした。
やば、勤務中だった。
お互い見合わせて苦笑いする。
「あ、じゃああとで」
『うん』
何もなかったかのように業務に戻った。