カオモジ(前編)-1
*
終わりは、ひどくあっさりしたものだった。
『別れよう』
私が、たった一言そうメールしただけで、私たちは終わったのだ。
『どうして?Σ( ̄Д ̄;』
アイツはそんなふうに返してきた。気付いてないと思って、平気でとぼける態度に腹が立つ。
私なりにいろんな思いをこめて、こう送ってやった。
『あんたの浮気が原因
二度とメールしないで
さよなら』
これが、私がアイツに送った最後のメールだった。
*
「…やっぱり、浮気してたんだあのやろー!」
次の日、別れたことを親友のマキに告げると、マキはまるで自分が浮気されたみたいに怒ってくれた。
「声も聞きたくなかったから、メールで別れ話してやった」
私はそう言って軽く笑顔を見せた。
「ホントに別れて正解だよそんなヤツ!ヨーコならすぐにいい男が見つかるって!」
マキは明るくそう言ってくれた。
いっしょに暗くなったりしないでくれるのが、すごくありがたかった。アイツに未練なんかカケラもないけど、やっぱりそれなりに落ち込んでいるのだ。
マキは本当にいい友達だと、あらためて私は思う。
急に、私の携帯電話が鳴った。着信音は、アドレスに登録していない人から掛かってきた時の音楽である。
だけど、取り出して見た画面に出ていた番号には、すごく見覚えがあった。
「…まさか、アイツ?」
私の表情を見て、マキが言った。
「…うん」
出るべきかどうか一瞬迷う。もしかしたら大事な話かもしれない。
しかし私は、電源スイッチを押して着信を切った。いまさらなにを言われてももうなにもかわらないし、第一アイツの声なんか聞きたくない。
「ホントにしつこいヤツー。マジキモい」
マキがふざけて汚いものを見た時のような顔をした。それが面白くて、私は笑う。
マキもいっしょになって笑った。
ふと、しばらく笑ってなかったな、とか思った。やっぱり別れてよかったな、とも思う。
マキにもう一度、ちゃんとお礼を言っておこうと思って、私は顔をあげた。
でも、私の言葉は遮られた。
電話の、着信音に。
「…もしかして…」
腹が立つどころの話じゃなかった。
一度電話を切られたら、話したくないんだとわかるだろう。ましてや昨日別れを言い渡されたのだ。
私は背筋がゾッとするのを感じた。
「…また…?」
マキが言った。顔が、信じられないって表情をしている。きっと私と同じ気持ちだろう。
「どうしよう…」
手が震え出していた。なんだか電話が、ひどく恐ろしく感じられる。
「き…切りなさい!それで、着拒しときなさい!」
「う、うん…っ」
言われた通り、電話を切り、着信拒否を設定した。これでもうかかってこない。
「なんなの…?」
「き、気にしない…!気にしない!きっと最初、間違えて切れたとでも思ったのよ。ほら、アイツ馬鹿だから…」
マキは変わらず明るい口調だったが、顔が少し青ざめていた。無理をしているのがわかる。
そして、そのマキの推理ははずれていた。
携帯電話が、今度はメールの受信を告げた。
恐る恐るそれを開く。
送信元には、やはり見覚えがあるアドレスがあった。
私の名前が含まれた、アイツのアドレス。
そして、本文には、こう書かれていた。
『殺してやる\(゜∀゜』