カオモジ(前編)-2
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テレビでは好きなアイドルが司会をしているバラエティ番組がやっていた。毎週見ている、大好きな番組だ。
それなのに、全然楽しい気分になんかなれない。
原因はわかっている。あのメールだ。
はあっとため息をついて、ベランダのほうを見た。いまはぴっちりとカーテンが閉まっている。夜なのもあって、外を見るのが怖かったからだ。
思い出すだけでゾッとする。あのメール。
あの後すぐに削除して、さらにメール受信拒否もしておいた。けど、少しも不安は解消されない。
まわりの物音が聞き取れないことが逆に怖くて、テレビを消す。一人暮しのアパートは、完全に沈黙に包まれた。
「やっぱり、マキに来てもらえばよかったかなぁ…」
思わず独り言を漏らした。
マキはあの後、「大丈夫?今日アタシ、あんたン家に行こうか?」と言ってくれた。でも私は、これ以上マキに迷惑をかけたくなくて、「いいよ。大丈夫」と断ってしまったのだ。
そのとき、部屋にテンポのいい音楽が響き渡った。携帯電話の、着信音だ。
私は心臓が飛び出るくらい驚いた。けれど落ち着いて聞いてみると、それはアドレス帳未登録の番号からの着信じゃない。
マキからのメールだった。
『はーい☆★
びびったかい?く(≧▽≦)/(笑)
なんかあったら電話してきなよ〜( ̄◇ ̄)ゞ』
いつものマキの調子だった。
私は気分が和んだのを感じ、同時にマキにお礼を言いそびれたままなのを思い出した。
『うん♪ホントにありがとね…(^_^)マジ感謝☆』
送信。
しばらくして、返信がきた。
マキとメールしていれば気も紛れるし、楽しい気分になれる。私は嬉しい気持ちでそのメールを開いた。
『なに拒否してんだよΣ( ̄Д ̄#
マジで殺すからな\(゜∀゜』
一瞬、頭のなかが真っ白になった。
(なにこれ?なんでマキが…?)
パニックになりながら、私は慌てて送信元を確認する。
うかつだった。それを送ってきたのはマキじゃなく、全く知らないアドレスだった。
でも、送ったヤツは明らかだ。
「なにこれ!もう止めてよっ!」
震える指でまた受信拒否設定をする。
だが…。
『無駄だよ〜(〇^艸^)クスクスッ』
また別のアドレス。
私は携帯電話を投げ捨てた。
恐怖で、泣き出してしまう。
「もうイヤ…。助けて…」
頭の中を、アイツの言葉が駆け巡っていた。
…殺してやる…
…無駄だよ…
…マジで殺すからな…
…………
「無駄だよ」
最後の言葉は、実際に耳に聞こえてきた声だと、私はすぐに判断できなかった。