桜吹雪-4
「それで、あの…嬉しかったんです」
「…………へっ?!」
またしても私は間抜けな声を出してしまった。
そんな私に朝晴君は少し口元を緩めながら続けた。
「"たまに見かける憧れの先輩"だったんで、嬉しすぎて混乱してます」
「………意味が分からない」
「ですよね」
「私も…嬉しすぎて混乱してる」
あの日のことは覚えていなくても、どうやら朝晴君も私のことを"憧れの先輩"として知っていたらしい。
「沖田 朝晴です」
「春野 加奈です」
私たちは目を見合わせて笑った。
ただ遠目から見るだけで、私たちは何もお互いのことを知らない。
だから戸惑ったのだと言う。
「初めて見たときの先輩は、髪に桜の花びらをつけて軽快に笑ってました」
「えー本当?!」
「だからいつも"桜の先輩だ"って思ってました」
帰り道の朝晴君の言葉に私は目を丸くした。
私だって名前を知るまでは"桜のクールボーイ"と勝手に呼んでいたのだ。
「朝晴君と出会ったのは桜吹雪の中」
「え?」
「あの時もプリントを拾ってくれた」
「え!あれって加奈先輩だったんですか?!」
「覚えてるの?!」
話を聞くと、あの時の朝晴君は寝起きだったらしい。
だから、あまり覚えてはいないが雰囲気が似ているし、もしかして…とは思っていたとか。
「桜効果ですね」
そう言って笑いながら隣りを歩く背の高い朝晴君を見上げて、「そうだね」と私も笑った。
あの桜吹雪は、私と彼を結びつけてくれる魔法のシルエット…。
END